世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3870
世界経済評論IMPACT No.3870

第9回TICAD横浜会議への期待:日印アフリカ開発協力に好機

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2025.06.16

 2月26日,東京で日本・インド・アフリカ官民フォーラムが開催され(経済産業省・日本経済新聞社共催),「アフリカの持続的な経済発展のための日印協力イニシアティブ」が提唱された。本フォーラムには,日印官民関係者やアフリカ開発銀行等世界46カ国・地域や機関からオンラインを含め約2,000人が参加した。成果は,来る8月20(水)~22(金)日に横浜市のパシフィコ横浜で開催予定の,日本が主催して国連や世銀,アフリカ連合委員会(AUC)と共催する第9回TICAD(Tokyo International Conference on African Development)会議に引き継がれる。1993年の第1回東京会議以来今回で4回目の開催となる横浜会議の成果がどのように進展するのか,期待したい。

アフリカ開発は「最後のフロンティア」

 アフリカ大陸は大小54カ国から成り,プラチナ,コバルト等天然鉱物資源が豊富な上に,2050年には人口が25億人を越え世界の4人に1人が居住する「最後のフロンティア」と目されている。このため,これまで欧米や日本,中国,ロシア,インド等からの開発協力の呼び掛けが行われており,中でも中国の巨大経済圏構想の一帯一路政策によるアプローチが目立ち,規模は小さくも日本やインドの経済協力も注目されてきた。中国の政策は一部に余剰生産物の販路拡大策といわれ相手国・地域と貿易不均衡や債務問題を引き起こすケースが多い反面,日本やインドのそれは国際協力の成果で評価されている。

 インドは,アフリカへのアプローチを拡大強化している(注1)。もともと地理的に近く古くから交流があったし,英国植民地時代に労働力として送り込まれた在外インド人(NRI,印僑)が多く,最近ではグローバル・サウス関係強化の点からもアフリカ重視の外交を重ねている。インド・アフリカ・フォーラムサミットはその一つで,コロナワクチン供与等医療支援の「人間の安全保障」に関連する協力が好評で,日本のアフリカ開発もマラリア対策の蚊取線香や蚊帳生産支援等で評価されており,両国のアフリカ開発協力は故安倍首相・モディ首相時代に関係が広がり深まっている。

 故安倍晋三首相時代には,TICAD推進に加えて中国の海洋進出や一帯一路政策に対する警戒が強まり,インドも中国のインド洋進出や近隣諸国への進出を警戒して,両国は自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想を共有し協力を強化した(注2)。また,アジア・アフリカ成長回廊(AAGC)構想や「日印産業共創イニシアティブ」もあって,日印両国はインド自身の経済開発のみならずアフリカ開発やFOIPでも協力を推進している。そして,2022年の第8回TICADチュニス会議の後を受ける第9回横浜会議は,ロシアのウクライナ侵攻や米中対立等国際平和や秩序が従来になく求められる時に開催の運びだ。

日印連携共創でアフリカ開発協力を

 日本のインド及びアフリカ向け貿易と投資関係は,他の主要国・地域に比べ相対的に小さいままである。しかし,インドは近年年6%以上の成長を持続し世界最大の人口大国なった上に,独立後100年の2047年までには世界3位内の経済大国として先進国入りを目指している。一方,アフリカも「最後のフロンティア」としビジネス界の関心が大きくなっている。JETROによれば,アフリカにおける日系企業拠点数は2010年の520件から23年には948件と少ないながらも確実に増えている。こうして,日印両国の官民におけるアフリカ開発への連携や共創を図る意義が大きくなってきた。

 こうした背景の下で提唱された,「アフリカの持続的発展のための日印協力イニシアティブ」は,経済産業省ホームページによると,アフリカとの貿易や投資拡大をにらんだインドへの産業集積の促進やアフリカでの民間投資,雇用創出,人材育成等の拡大を図るとしている。また,JETROや日本貿易保険(NEXI),ODA等の各種支援スキームも連動させ,同省はインドの輸出競争力強化に資する半導体や繊維,中小企業の協力を推進し,インド商工省傘下の投資促進機関(Invest India Japan Plus)に職員を派遣する。さらに,第3国輸出促進では,NEXIとインド輸出信用機関(ECGC)とは再保険協力等を追求するとしている。

 こうした展開から,TICAD横浜においては日印の特にビジネスでのアフリカ開発協力の推進に期待が高まる。協力事例にはこれまでのTICAD会議参加が契機になったものが少なくなく(注3),公式な議論に加えてより多くの企業に参加とビジネス・チャンスの場を設けることが望まれよう。これは前回の横浜TICADでも併設されており,第9回会議の参加者,関連イベントの詳細等の発表を踏まえて,出来たら直に見学したいと思う。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3870.html)

関連記事

山崎恭平

最新のコラム

おすすめの本〈 広告 〉