世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
いくつかの資本主義をめぐって
(広島市立大学国際学部 教授)
2016.11.07
「ジェトロ世界貿易投資報告」(2016年8月)によれば,2015年の世界商品貿易(輸出)額は,前年比12.7%減と,6年ぶりの減少に転じている。数字的には,2009年の12兆億ドル強へと落ち込んだ前年の2008年の16兆ドル強を少し上回る額となっている。
歴史的にみると世界貿易(輸出)額は1880年代前半68億ドル程度から1913年195億ドル程度と30年余でほぼ3倍弱と伸びた。その後,第一次・第二次大戦があり反動・停滞の期間となった。戦後は,1964年~67年のGATT多角的貿易交渉(ケネディ・ラウンド)以降,80年代前半と90年代前半の減少・停滞期はあるもののおおむね45度に近い形で世界貿易(輸出)額は伸びた。1970年以降,73年/70年,76年/73年,80年/76年と各々2倍程度伸び,80年(2兆ドル)比で89年1.5倍,94年2倍超,95年ほぼ2.5倍,2000年3倍,03年3.5倍,04年4倍超の8.6兆ドル,08年にはほぼその倍の16兆ドル(80年比8倍)となっている。1913年比でいえば,世界貿易(輸出)額は800倍超である。
ところで,グローバリゼーションに関して,ジェフリー・ジョーンズ[2005(邦訳2007)]は,19世紀から1913年までを第1次グローバリゼーションと呼び,1914年から1970年代までを反動と復興を含む揺り戻し期とした。そして,その後に第2次ともいえるグローバリゼーションが進んできたという。
第2次を進めてきたアクターのひとつが多国籍企業である。とりわけ1980年代後半以降の世界直接投資残高は,右肩上がりで,2000年くらいまではほぼ45度,それ以降は60度以上程度の伸びを示している。1980年,86年,91年はおおむね倍々で,以後,国際貿易投資研究所「国際比較統計」(2016年3月18日)によれば,1995年(4兆ドル)比で2000年1.8倍,05年2.9倍,10年5.1倍,14年6.5倍(25.9兆ドル)と推移している。
他方で,世界全体のGDPに占める貿易規模と直接投資規模をみると,貿易においては2009年に前年の31%程度から27%弱に減少し,10年29%,11年31%となったものの13年以降減少している。また,2000年まで増加した直接投資規模も2003年に1997年強程度に落ち込み,その後2007年をピークとし09年に03年程度に再び落ち込み,その後は15年まで平均ほぼ横ばいに近い動きをしている。世界銀行に基づく資料である(注1)。これは,第2次グローバリゼーションの反動・揺り戻し期の前兆ないし初期なのであろうか。あるいは,前述資料で述べている直接投資(資本)のグローバリゼーションの進展による現地生産が増加し商品貿易が停滞している状況なのであろうか。
カソン[2000(邦訳2005)]は,「日本語版に寄せて」のなかで,国際ビジネスの環境変移をもたらす主因としてグローバリゼーションをあげているが,他方で環境変移の根源が経済的ものから政治的なものに移ってきたことにも触れている。ただ,環境変移をコントロールするには,情報を得ることであり,情報獲得コストと情報獲得によって削減できるリスクとの間のトレードオフを見出さなければならないといっている。
環境変移をもたらす資本主義にいくつかあることは,アルベール[1991(邦訳改訂新版2011)]などで指摘されている。アルベールは保険の起源から資本主義の違いを導出した。アングロサクソン型は,貿易の発展が海上保険を生み,その投機的要素は海外での事業展開に際してもみられる。例えば,フリー・スタンディング・カンパニィ(注2)は,ロンドン等で設立され,投資家から資金調達し,その資金を植民地等の事業国で活用した。事業国側のスキームとしてのアメリカの投資銀行は,同様に欧州から資金調達した。いずれも「市場」から資金調達した。こうした流れが政治にも影響し,各国の制度を変えた。
この短期的視点になりがちな流れは,他方で国際的のみならず国内的にも格差を生んだ。その対応策の補完的役割として企業のCSR活動やBOPビジネスへの展開があると思われるが,反発は,政治的行動,テロ,紛争などとなって激しさが顕在化している。
経済活動が資本主義的であるとしても,資本主義にはいくつかのタイプがある。その多様性の根源にはそれぞれの文化があり,それが各々の経世済民に連なる。趨勢的にアングロサクソン型が浸透しているが,国民国家などあらゆる組織,トップには,どうしていくことがその地にいる一人ひとりの生活の安定,幸せにつながるのかを意識したガバナンスが求められているようだ。国際社会のなかで国境が点線化していることをふまえながらである。
一部で研究は進んでいるが,あらためて,さまざまな「境界」あるいは「際」を考え,見つめ直すことも必要である。それは,多様性,いわばそれぞれの尊厳を認め,守りつつ,「境界」「際」を越え,つなげるイノベーションが求められることであろう。さまざまなレベルでのイノベーション過程は,模倣,学習から創造へと連なる途であろうが,とりわけ政治の世界でのイノベーション過程が求められているように思われる。
[注]
- (1)参考資料:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4900.html
- (2)大東和武司[1997]「フリー・スタンディング・カンパニィ」『世界経済評論』Vol.41, No.1, pp.55-63.
[主な参考文献]
- M. カソン著,江夏健一・桑名義晴・大東和武司監訳[2005]『国際ビジネス・エコノミクス』文眞堂
- ジェフリー・ジョーンズ著,安室憲一・梅野巨利訳[2007]『国際経営講義』有斐閣
- ミシェル・アルベール著,小池はるひ訳,久永宏之監修[2011]『資本主義対資本主義』改訂新版,竹内書店新社
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