世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.666

円高は韓国輸出回復の追い風にならず

高安雄一

(大東文化大学 教授)

2016.07.04

 韓国の経済成長率が潜在成長率を下回って推移するようになり5年目となった。韓国の潜在成長率は,高度成長期からは大きく低下したものの,日本よりははるかに高い3%台後半である。韓国の輸出がGDPに占める割合は2015年で55.4%であり,主要輸出国の景気によって韓国の成長率は大きく左右される。2012年は欧州の景気が後退したとともに,アメリカの景気も本調子ではなく,世界全体の成長が総じて鈍化した。韓国はその影響を大きく受け,2012年の成長率は2.3%にとどまった。その後,欧州の景気は持ち直し,アメリカも緩やかに回復を続けたことから,2013年以降,韓国の成長率は少しずつ潜在成長率に近づいていった。しかし,韓国にとって不幸なことに,2015年に入り,付加価値ベースでも最大の輸出相手国となっている中国の景気後退が鮮明となり,同年の成長率は2.6%と再び3%を割った。6月28日に韓国政府が公表した「2016年下半期経済政策方向」では,今後の成長見通しが示されている,これによると,足下の輸出不振および中国景気の不振がしばらく続くといった見通しから,2016年の成長率は2.8%,そして2017年も3.0%と当面,韓国が本格的な回復には至らないことを示している。

 長らく続いていた円安基調が崩れてから半年が経過した。円ドルレート(東京外国為替市場中心相場)の月中平均値を見ると,2011年7月から2012年10月の間,1ドル80円を割り込む円高がおおむね続いていたが,その後は円安が進み,2015年11月には1ドル122円54銭となった。しかし円安基調は3年ほどで終わりをつげ,2015年12月より再び円高が進み,2016年4月には1ドル109円68銭と110円を割り込んだ。そして同6月29日の東京外国為替市場の中心レートは1ドル102円40銭と,イギリスの国民投票でEU離脱が過半数を占めたこともあり,さらに円高が進んでいる。

 急速に進んでいる円高は,経済理論から見れば韓国の輸出の追い風となり,ひいては成長率回復が早まることが考えられる。しかし,残念ながら現実には円高は韓国の輸出の追い風にはなりそうもない。円高となり日本の企業がドル建て価格を引き上げれば,韓国製品の価格競争力が高まる。韓国の輸出製品は日本との競合が多いといわれており,そうなれば韓国の輸出はプラスの影響を享受する。ではなぜ,円高が韓国の輸出にとって朗報とならないのであろうか。

 これは日本の輸出企業が円高時にドル建て価格を引き上げない傾向にあることが理由である。ドル建て価格に円高の影響を転嫁しないということは,円建ての手取りが減少することを意味し,ひいては利益の減少をもたらす。利益の減少を受け入れてまでドル建て価格を引き上げない理由は,シェアの確保をより優先するためである。もっとも円安時にドル建て価格を引き下げることも行っていない。この企業行動は契約通貨建ての輸出物価指数から確認でき,円高時にも円安時にも指数の変動がほとんど見られない。

 今回の円高局面においても,日本企業はドル建て価格を引き上げないと見られることから,韓国企業が価格競争面で優位に立つことはなさそうである。円高が輸出回復のきっかけにはなり得ない以上,韓国の輸出が本調子となるためには,アメリカの景気が腰折れせず,かつ中国の景気が力強く回復することが必要である。しかし現状では,アメリカの景気が腰折れするリスクはあっても,中国の景気が本格的に拡大する兆しは見られず,しばらく韓国の輸出は冬の時代が続きそうである。

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