世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.645

拡大するインド経済と新たなエネルギー政策

小島 眞

(拓殖大学 教授)

2016.05.23

 昨今,中国を上回るペースで拡大するインド経済の動向に世界から熱い眼差しが向けられている。IEA(国際エネルギー機関)によれば,今後,2040年までの期間中,インドでは中国を上回る石油・石炭の消費拡大が展望されている。1人当たりエネルギー消費量では世界平均の3分の1にすぎないものの,CO2排出量ではインドはすでに中国,米国に次ぐ世界3位の国になっている。経済成長の確保,さらには環境・資源の持続可能性の観点からして,インドのエネルギー問題はグローバルにまたがる戦略的重要性の高いテーマになっている。ここでは,経済的拡大を背景とするインドのエネルギー事情と今後の展望,さらには日印協力の方向性について検討してみたい。

インド経済拡大の長期展望

 インドは1991年に経済改革を導入して以来,現在まで年平均6.5%のGDP成長率を記録してきた。今後,インドは2040年まで年平均6.5%(2020年まで年間7.5%,その後2040年まで年間6.3%)の成長率を示すとともに,世界全体のGDP拡大に対する貢献度は20%に及ぶとされている。

 インドの人口は,2025年には中国を凌駕し,さらに2040年には16億に達するものと予測される。インドの人口構成は若く,全体の約60%(7億人)が30歳未満であり,そのためインドは長期にわたって人口ボーナスを享受できる状況にある。巨大人口の存在は雇用,資源の逼迫につながる恐れがあるものの,巨大な国内市場は経済成長の推進力として作用することが期待される。

2040年までのエネルギー展望

 インドでは電気にアクセスできない人々は依然として3億400万に及び,人口に過半数は炊事に際してバイオマス燃料(薪・牛糞など)を使用している。こうしたエネルギー利用面での後進性は,経済成長の進行と相まって,今後,インドのエネルギー需要が旺盛な拡大を遂げる余地があることを示唆している。

 実際,IEAの長期展望によれば,インドのエネルギー需要は今後2040年まで年間4.5%のペースで増加し,世界全体のエネルギー消費の4分の1を占めることが見込まれている。石炭消費量も2040年までにはOECD全体の合計を50%上回り,インドは中国に次ぐ石炭消費国になる見込みである。

 さらに電力消費量については,今後,年平均4.9%のペースで拡大し,2040年には現在の日本,中東,アフリカを合わせた電力消費量を上回るとともに,2025年までにインドはEUを凌駕し,中国,米国に次ぐ電力供給大国になると見込まれる。それに伴って総発電設備は,現在の300GWから2040年には1,000GWにまで拡大するものと見込まれている。

インド政府の新たなエネルギー政策

 今年3月末現在,インドの総発電設備は298GWであり,日本とほぼ肩を並べるレベルにある。電源構成を見ると,火力70.7%(石炭62.1%,ガス8.2%,ディーゼル0.3%),原子力1.9%,水力14.3%,その他13.0%である。発電部門の主力は石炭火力であり,その85%以上は熱効率の悪い旧来方式のボイラーを使用している。

 昨今,インドでは都市部を中心にPM2.5による大気汚染がすでに深刻な状況を迎えており,政府としても大気汚染,さらにはサイクロン,海面の上昇など地球温暖化問題に積極的に取り組む姿勢を鮮明にしている。昨年10月,COP21(第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議)に向けて,2030年までに達成すべき自主目標を発表した。そこでの目玉は,①GDP当たり温暖化ガス排出量を対2005年比で30~35%削減させる,②発電設備に占める再生可能エネルギーのシェアを40%まで引き上げる,③植林を通じて二酸化炭素20~30億トン分の炭素の吸収を図る,などである。

 そこで特に注目されるのは,再生可能エネルギーを推進するための切り札として,2022年までの目標として,風力発電設備を23.76GWから60GW,さらに太陽光発電設備を3.7GWから100GWに拡大するという野心的な目標が提示されていることである。太陽光については,高圧送電網につながる大型設備,配電網に接続される屋上型設備,さらには送電系統から独立したオフグリッド型設備などの普及が目指されている。

日印協力の方向性

 インドは世界のエネルギー問題の中心へと確実に向かっており,そうしたインドのエネルギー問題は二国間戦略的グローバル・パートナーシップを形成している日本にとっても取り組むべき重要な課題となっている。インドでは風力,太陽光などの再生可能エネルギーが大いに推進される一方,石炭を豊富に埋蔵する国として当然のことながら,今後とも電力供給の主流であり続けるのは依然として石炭火力である。インド政府の自主目標によれば,既存の指定の火力発電所においてエネルギー効率向上に向けての目標設定が課せられるとともに,新規の大規模な石炭火力発電所においては超臨界圧技術の採用が義務付けられることになっている。昨年12月の日印共同声明でもすでに謳われているように,今後,クリーンテクノロジー分野での日印間の連携強化を図ることが強く求められている。

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