世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3782
世界経済評論IMPACT No.3782

暗雲漂う米景気の行方

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2025.03.31

1−3月期GDPナウキャストはマイナス成長を予測

 3月26日付けのアトランタ連銀GDPナウキャストによれば,米国の1−3月期実質GDPは,トランプ関税を前にした駆込み輸入による純輸出寄与度の下落を主因に,前期比年率換算−1.8%と,2022年1−3月期以来のマイナス成長が予測されています。輸入は同+31.9%と急増し,純輸出寄与度は−3.95%と大幅なマイナスとなる見込みです。

 関税が実施に移されて今後は輸入が減り,純輸出寄与度は回復するでしょう。ただ,1−3月期には,個人消費支出も前期比年率換算+0.4%と昨年10−12月期の同+4.2%から大きく鈍化すると予測されています。関税賦課によってインフレ率が上昇すれば,個人消費支出が今後さらに落ち込む懸念があります。米景気の行方には暗雲が漂っています。

トランプ関税への警戒感を高めるFed

 3月18,19日開催のFOMCでは1月に続いて利下げが見送られました。FOMC参加者の見通しは,12月の前回見通しと比べて,2025年の実質GDP成長率(10−12月期の前年同期比)は2.1%から1.7%へ下方修正されました。一方,食品,エネルギーを除くコア個人消費支出価格上昇率(10−12月期の前年同期比),は2.5%から2.8%へ上方修正されました。Fedはトランプ関税が景気を悪化させ,インフレ率を押し上げるとして警戒感を高めていることがうかがわれます。

 個人消費支出が鈍化する中,企業は関税引上げを小売り価格に転嫁することをためらい,実際にはインフレ率はあまり上昇しないかもしれません。その場合,企業はコスト抑制のために雇用削減に動いて失業率が大きく上昇するでしょう。そうなれば,Fedが利下げを再開することになりそうです。ただ,トランプ関税によって景気,物価が実際にどうなるのかを見極めるのには時間を要するため,5月6,7日の次回FOMCでも政策金利の変更は見送られそうです。利下げ再開は早くてもその次の6月17,18日のFOMCになるとみられます。

トランプ大統領の強硬姿勢は変わるのか

 今後の景気,物価の行方を考える上では,トランプ大統領が関税措置などに関して強硬な姿勢を変えるのかという点が重要です。インフレが高騰したり,失業率が上昇したりすれば,高率の関税賦課をあきらめるか,一旦実施しても早期に取り下げるかもしれません。ただ,失業率の上昇に対して,雇用保護を口実に,より高率な関税を賦課したり,不法移民の退去を加速させたりすることも考えられます。

 トランプ大統領の姿勢を占う上では,国民からの支持が注目されます。ラスムセン社が毎日発表している大統領支持率は,トランプ政権発足直後の1月23日の56%から3月26日には52%に低下しています。2017年に発足した第一次トランプ政権の時には,当初の56%から3月下旬には44.5%まで下がっていました。足元でインフレ・景気悪化懸念が高まっているわりには,大統領支持率の低下は緩やかなものに留まっていると言えます。支持率が大きく下がらない限り,トランプ大統領は強硬な姿勢を改めようとはしないでしょう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3782.html)

関連記事

榊 茂樹

最新のコラム