世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3410
世界経済評論IMPACT No.3410

インドのR&D拠点をめぐる最新動向

小島 眞

(拓殖大学 名誉教授)

2024.05.13

 これまでITサービスのアウトソーシング先としてインドに進出した多くのグローバル企業は自社内開発施設を通じて,TCSやインフォシスなど民族系IT企業とともに,インドIT産業の躍進に一役買ってきた。昨今,こうした自社内開発施設が手掛ける分野は従来型のITサービスやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)にとどまらず,先端の製品開発やR&D(研究開発)分野に広がっており,グローバル・ケイパビリティセンター(GCCs)としての役割を担うようになってきている。ここでいうGCCsとは,単にコスト効率性を目的としたものとは異なり,グローバル事業目標に資するべく,イノベーションの推進や組織能力の向上を主眼とするR&Dセンターのことである。

インドにおけるGCCsの展開

 実際,インドで設置されているR&Dセンターは,GCCsとして各企業にとって最大規模ないしは2番目の規模のものが多く,インドはすでにR&Dのパワーハウスとして注目される存在になっている。例えば,マイクロソフトの場合,同社がベンガルールに設置しているR&DセンターはAIソリューションを含む同社の技術開発全体において重要な役割を果たしている。さらには独SAPの場合,同社がベンガルールに設置したR&Dセンターは同社全体の17~18%に相当する2万人以上のエンジニアを雇用し,AIを含む同社全体のR&Dの40%,さらには特許出願の4分の1をカバーしている。またIBM社はベンガルール,プネー,アーメダバード,コーチにそれぞれ研究所を設置し,先端のAIソリューションやAI製品の開発を手掛けている(注1)。

 インドは理工系人材の宝庫ということで,現在,多くのグローバル企業がインドにGCCsを設置しているが,それと同時に注目されるのは,インド系人材がグローバル企業のトップにまで上り詰めるという事例が往々にして見受けられることである。ちなみに上記のグローバルIT企業3社の場合,マイクロソフト,IBMの現トップ(会長・CEO)はいずれもインド出身者であり,SAPの場合も次期会長にはインド系の人物の就任が予定されている。

 ところでインド主要IT関連企業が加盟する業界団体であるNASSCOMとビジネス・コンサルティング企業Zinnovとの共同調査によれば,2022年度現在,インドでGCCsを設置しているグローバル企業は1580社強(GCCsの拠点数は2740強),そこでの雇用数は166万人強に及んでいる(注2)。さらには上記のレポートでも指摘されているように,近年,インドのGCCsの特徴として指摘できるのは,半導体関連のGCCsが顕著に増加しつつあることである。実際,インドは世界の半導体設計者全体の20%を供給しているという状況にある(注3)。

重要性を増す半導体GCCs

 2022年度現在,インドで半導体GCCsを設置している企業は55社以上(GCCsの拠点数は95以上)存在し,そこでの雇用数は5万人以上に及んでいる。ちなみにインドに半導体GCCsを設置する企業の74%は米国に本社を置く企業であり,以下,EU,さらには日本,韓国を含む東アジアの企業の順になっている。さらに23年第4四半期(10~12月)において,新規に設立されたGCCsは9件であり,そのうち3件は半導体関連であった(注4)。

 具体的事例としては,垂直統合型半導体メーカーである蘭のNXPセミコンダクターズはインドの設計センターはベンガルール,ハイデラバード,プネー,ノイダで同社最大規模の2500人以上のエンジニアを雇用し,製品開発において500件以上の特許を取得している(注5)。さらにインテルの場合も,ハイデラバードのエンジニアリングR&Dセンターにおける1万2000~3000人規模のエンジニアと協働しつつ,特許取得を伴う先端の製品開発を手掛けている。またインテル,サムスンやテキサス・インスツルメンツなどグローバル企業8社の半導体GCCsの場合のように,インド工科大学(IITs)やインド科学大学院(IISc)など学術機関と提携しており,人材育成を含めて半導体エコシステムの形成に積極的に関与しているという事例もみられる。

半導体エコシステム確立に向けての展望

 第2次モディ政権ではグローバル・サプライチェーンに直結した製造業ハブの確立を目指すべく,14部門を対象にした生産連動型インセンティブ(PLI)に続いて,21年12月にプロジェクト・コスト全体の50%を支援するという100億ドル規模のインド半導体プログラムが打ち出された。今年2月末,ようやく第1次募集に続く第2次募集の下で3件のプロジェクトが承認され,インド半導体産業実現に向けて大きな第一歩を踏み出すことになった。その中にはタタ・エレクトロニクスと台湾の力晶半導体との合弁によるインド初のチップ製造工場の設立も含まれており,半導体製造の「前工程」と「後工程」の双方を並行して手掛けることが目指されている。

 GCCsの活動を通じて,インドはソフトウェア大国として半導体バリューチェーンにおけるウエハー設計/R&D分野で優位性を発揮しており,すでに半導体のサプライチェーンの一角を占めているという実績がある。PLIスキームの下で携帯電話などエレクトロニクス製品の国内生産がすでに順調な拡大を示していることも踏まえると,今後,水や電力の安定供給をいかに確保するかというインフラ整備の問題が大きく問われることになるにせよ,インドは半導体エコシステムの確立に向けて大きく前進していく見込みである。

[注]
  • (1)The Economic Times, September 3, 2023.
  • (2)NASSCOM & Zinnov, India GCC Trends: Quarterly Analysis Q4CY2023, March 2024.
  • (3)Ministry of Finance, Economic Survey 2022-23, Chapter 9 (Government of India, 2023).
  • (4)NASSCOM & Zinnov, Ibid.
  • (5)The Economic Times, August 1, 2023.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3410.html)

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