世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.636

ホセ・ムヒカ氏(元ウルグアイ大統領)から学ぶ

岡本由美子

(同志社大学政策学部 教授)

2016.05.09

 2016年4月始め,ホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領が訪日した。日本に滞在したのは1週間たらずであったが,各報道局が挙って彼の行き先々を追いかけた。ホセ・ムヒカ氏の名前が世界に知れ渡ったのは,2012年,ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連の「持続可能な開発会議」(通称,リオ+20)である。行き過ぎた大量消費社会に異を唱え,真の幸せとは何かを問い,“もっとも衝撃的なスピーチ”として脚光を浴びることとなった。残念ながら当時日本では,話題にも上らなかったようで,なんとも隔世の感がある。

 2015年は人類の歴史上,極めて重要な年となった。1つは,2015年9月に開催された国連サミットで,「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継として,「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されたことである。先述の(2012年の)リオ+20で,各国が環境保全と貧困削減の両立を目指すことになったことが大きい。もう1つは,同年12月,世界の多くの国や地域が参加する,2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組み(バリ協定)が採択されたことである。今年に入り,国際協定史上最多,と言われるほど多くの国や地域が署名したことの持つ意味は計り知れない。ただし,ただ単に数値目標を設定し,策を講じるだけでは,根本的な解決にはならないであろう。ホセ・ムヒカ氏が強調するように,世界の1人1人が日々の生活スタイルを見直し,本当の幸せとは何かを問わない限り,“持続可能な社会”の構築は極めて難しいであろう。

 しかし,益々グローバル化する現代において,そのような夢のような“持続可能な社会”は,そもそも,存在し得るのであろうか。答えは‘YES’である。徳島県上勝町である。同町は定義上,限界集落に分類されるが,そんな暗いイメージは微塵も感じさせない町である。今や,上勝町の’葉っぱ‘は世界にも輸出されるようになり,TPP推進派の政治家が日本の農業もやればできる代表例に挙げる程まで,その認知度が高まっている。しかもその主役は,通常,社会の弱者として考えられている,70歳や80歳代の高齢の女性である。PCタブレットを片手に葉っぱの市況を見ながら,受注や出荷準備をする姿は,感働そのものである。’葉っぱ‘に関する知識を駆使して生き生きと働く’おばあちゃんたち‘は,将来に微塵も不安を感じないという。

 ‘葉っぱ’ビジネスで再生した上勝町は,ゼロ・ウエスト宣言をした町としても有名である。1990年代はゴミの焼却を野焼きに頼っていた町が,今や焼却炉もゴミの収集車も持たず,町民の徹底した分別と無駄をなくす努力によって,ほぼ80パーセントのリサイクル率を達成したという。他の地方公共団体のリサイクル率の平均が約20パーセントというから,上勝町の取り組みは日本でも突出していると言える。グローバル社会は持続可能であることを,まさに,上勝町が証明してくれているといえよう。

 最後に,ホセ・ムヒカ氏の名言をもう1つ,紹介させていただく。「人類の重要な文化の誕生や発展は,片隅の小さなコミュニティで生まれているんだよ。ギリシャでも,ルネサンスでも,アジアの文明でもね」(くさば編2015:55)。ホセ・ムヒカ氏が理想とする“持続可能な社会”への挑戦とそのための大きな社会変革は,間違いなく,日本の小さなコミュニティから始まっているのである。

[参考文献]
  • くさばよしみ編(2015)『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』汐文社。

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