世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.620

企業の競争力:イノベーションと海外直接投資

手島茂樹

(二松學舍大学 教授)

2016.04.04

 J.ダニングの折衷理論によれば,企業はその競争力を高めるときにのみ,海外直接投資を行う。日本の現状はどうであろうか。

 企業の競争力の源は,ライバル企業の創出しえない新製品の新市場を大規模に作り出し,しかもこれを一定期間,確保するイノベーションの力である。こうしたイノベーションは,利益を最大化するために,新しい情報の非対称性を作り出す機会主義的行動であり,取引費用を高め,所得格差の拡大や環境負荷の増大を生ずる恐れもあるが,社会を変革する有益な新製品の創出,生産性の向上,競争力を持つ産業・企業の発展等による経済社会への貢献は絶大である。イノベーションの在り方は,産業特性によって,以下の二つに大別される(*)。

  • (1)需要・供給両面から新製品の汎用品化が進みにくい産業では,「漸進的で,ボトムアップ型の,持続的な革新的イノベーション(「持続的な革新的イノベーション」)」が有効である。こうした産業では,取引相手との間で,「長期にわたる信頼感の醸成の利益を,短期の機会主義的行動による利益」よりも重視する「日本型選好(J選好)」に基づく,日本企業の「ポスト・フォーディズム型組織」が,取引費用の最小化を達成することによって,「部品と製品の生産システムの同期化」と「持続的な革新的イノベーション」との両立を実現し,先進国の高付加価値品市場等に,高品質で相対的に低コスト・低価格の新製品を供給できる。
  • (2)新製品のライフサイクルが加速し,急速に汎用品化する産業では,「急進的で,トップダウンの革新的イノベーション(「急進的な革新的イノベーション」)」が有効である。米国企業は,「急進的な革新的イノベーション」によって,市場にマッチした新製品を生み出し,新製品のコア部分のみは,自らの絶対的な聖域として外部から秘匿しつつ,製品製造については,外部のアジア企業等に委託し,徹底的な標準化と大規模生産でコストダウンを図る。これによって,急速に汎用品化する市場でも,高収益を確保しつつ,大きな競争力を保持する。さらに,新たな「急進的な革新的イノベーション」によって別の新製品の速やかな供給に成功すれば,競争力を永続できる。

 一国内で,(1)と(2)がバランスよく保たれれば,当該国経済のダイナミズム・効率と社会の安定との調和は保たれる。ところで,かつて,バートレット&ゴーシャルは,日本企業は,「標準化された製品の世界規模での市場に対し,規模の経済を生かした効率的な生産を行う」ことに競争力のある「グローバル企業」であり,現在の世界市場では,そうしたグローバルな効率性に加えて,各国市場の多様性に有効に対応する欧州企業(マルチナショナル企業)の柔軟性と,世界市場において新たなイノベーションを創発し,それを世界中の子会社に伝播する米国企業(インターナショナル企業)の能力とをあわせもつ,超国籍企業になる必要があるとした。

 バートレット&ゴーシャルの認識とは異なり,上記(1)で論じたように,日本企業は,先進国を中心とした高付加価値品市場であって,汎用品化が容易に進まない産業では,「持続的な革新的イノベーション」を実現するのに成功している。海外での生産・新製品開発の場では,J選好による取引費用最小化は,日本国内ほど有効ではないが,日本企業もその海外子会社も,概ね競争力を保持・強化してきた。

 一方,「標準化された製品の世界市場に対し,規模の経済を生かした効率的な生産を行う」点に関しては,日本企業の積極的な海外直接投資と生産拠点の国際展開にもかかわらず,競争力は,日本企業から,韓国・台湾・中国等のアジア企業にシフトしている。こうした現象は,上記(2)の汎用品化が加速されやすい産業で生じている。これらの産業では,日本企業の「持続的な革新的イノベーション」による新製品は,過剰品質の高付加価値品とみなされる一方,米国企業は,「急進的な革新的イノベーション」によって,市場にマッチした新製品を生み出し,製品製造に当たっては,外部のアジア企業等との協調の下に,徹底的な標準化による大規模生産と現地市場の需要動向への適切な対応を行っている。米国企業とアジア企業の協働によるビジネスモデルは,この分野では日本企業より有効である。したがって,日本企業は,米国企業に追随するのではなく,(2)の産業分野における,より大きな有効性を持つ新しいビジネスモデルの構築と(1)の産業分野における,容易に汎用品化しない新しい大市場の発掘,による喫緊の対応が必要である。

[注]

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