世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.603

税収の上振れは財政再建に活用を

小黒一正

(法政大学 教授)

2016.02.29

 2016年度予算案の国会審議が始まっているが,2014年4月の消費税率引き上げに伴う税収増を除いても,2010年度から14年度の国の税収は当初の見積もりよりも上振れている。このため,税収の上振れの扱いが国会の争点の一つになっており,2016年1月21日の経済財政諮問会議において,安倍首相は,税収の上振れ分のうちどの程度の税収が安定的に増えたのかを判断し,今年6月に取りまとめる予定の「経済財政運営の基本方針」にその活用策(例:一億総活躍社会の関連施策等に活用)を盛り込むように指示を行った。

 ただ,次の3つの理由から,このような措置は財政再建との関係で少々リスクが高い。

 第1は,税収は上振れることもあるが,下振れることも多いためである。例えば,国の一般会計(当初予算)の税収見積もりに対し,決算の税収額が下振れたのは,1981年度から2014年度の34回の政府予算のうち約半数の15回もある。2001年度や02年度のように約3兆円の下振れで済む時もあるが,1998年度や2008年度のように約9兆円(=税収の約15%超に相当)も下振れる時もある。

 第2は,財政再建の目標達成が遠のく可能性が高いためである。そもそも,上記の経済財政諮問会議で,内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」の改訂版を提出したが,2017年4月の消費増税を着実に実施し,2015年度から20年度のGDP成長率の平均を高めの値(実質1.7%,名目3.2%)に設定しても,2020年度の国と地方の基礎的財政収支(PB)は6.5兆円の赤字となる。政府が目標とする2020年度のPB黒字化には追加の改革が必要で,税収の上振れがあるならば,それは支出の拡大に利用せず,PB赤字の縮減に活用するべきである。

 第3は,景気循環である。内閣府は,「景気動向指数研究会」(座長:吉川洋・東大教授)の議論を踏まえて景気循環の判定をしているが,2009年3月からスタートした第15循環の景気の山を2012年3月,谷を2012年11月に確定し,その資料を2015年7月24日に公表している。これは現在の景気回復が安倍政権発足直前の2012年11月からスタートしたことを意味するが,この資料によると,過去の景気拡張期の平均は約3年(36.2か月)であることが読み取れる。もっとも,拡張期が6年近くに及ぶケースも過去にはあるが,それでも2018年11月であり,2020年まで拡張期が続く確率は極めて低い。

 以上の理由から,政府・与党が2020年度のPB黒字化という財政再建目標を本当に達成するつもりがあるならば,税収上振れの活用策としては,財政赤字の縮減に活用するのが最も適切と言えるはずである。2017年4月の消費税率引き上げで導入予定の軽減税率では0.6兆円分の安定財源が確保できていないという問題も抱えており,将来世代や若い世代の利益も視野に政府・与党の慎重な判断を期待したい。

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