世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
PB黒字化がなぜ必要か
(法政大学 教授)
2025.06.30
2025年6月に策定された骨太方針では,2025年度から2026年度にかけて,可能な限り早期に国・地方合計の基礎的財政収支(PB)を黒字化する目標が掲げられた。一部ではインフレに伴い財政状況が改善しているとの声もあるが,実態は必ずしもそう単純ではない。
そもそも政府は,「2025年度までに国・地方合計でPBを黒字化する」ことを目指していた。しかし,内閣府が2025年1月に公表した最新の中長期試算によると,国単独での財政健全化には依然として大きな課題が残ることが浮き彫りになっている。この試算では,名目GDP成長率を前提とした「高成長」「成長移行」「過去投影」の三つのシナリオを設定し,2034年度までのPBや公債残高の動向を試算している。なかでも「過去投影」ケースでは,2025年度の国・地方合計PBが約4.5兆円の赤字である一方,2026年度には約0.8兆円の黒字へ転換すると見込まれている。一見すると目標達成は可能に思えるが,国のみを取り出してみると,2026年度以降も対GDP比で約1%のPB赤字が継続する厳しい現実がある。要するに,地方の黒字が国の赤字を相殺しているにすぎず,国単独でのPB均衡を達成しなければ,真の意味での財政健全化とはいえないのである。
さらに,金利正常化に伴う長期金利の上昇は,利払い費増加を通じて財政収支(FS)を一層悪化させる要因となる。この試算によれば,国・地方合計のFSは2026年度の対GDP比▲0.7%から2034年度には▲1.9%へと悪化する見通しだ。一方で国単独のFS赤字は2026年度に▲1.8%,2034年度には▲2.7%にまで拡大する。ここでドーマー命題(名目GDP成長率nとFS赤字δが一定なら,債務残高対GDP比はδ÷nに収束する)を当てはめると,仮に2034年度の国単独FS赤字がδ=2.7%,名目GDP成長率を1995~2024年度平均のn=0.64%とすると,債務残高対GDP比はδ÷n=約4.22倍,つまり420~480%まで膨張する計算となる。現在,国の債務残高は対GDP比約180%であるが,この成長率を前提にすれば,現在と同程度の水準に留めるためには,国の財政赤字(対GDP比)を約1%に抑え,国のFSやPBを対GDP比で1.7ポイント改善する必要がある。1.7%ポイントの改善幅を,国・地方を合わせた基礎的財政収支(対GDP)で評価するなら,国・地方の基礎的財政収支(PB)を対GDP比で2%弱まで黒字化する必要があることを意味する。
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