世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
地方創生の教訓とエビデンスの重要性
(法政大学 教授)
2024.12.30
地方の若者が東京に流入する主な段階は大学進学時点ではない
人口減少で成長率の低下が進むなか,石破首相が力を入れる政策の一つが「地方創生2.0」だ。現時点でこの詳細は不明だが,周知のとおり,地方創生は2014年からスタートしている。出生率の底上げや地方の衰退に歯止めをかけるため,東京一極集中の是正を政策目標の一つに掲げてきた。だが,それ以降,2015年で1.45であった合計特殊出生率は,2023年の1.20に至るまで,8年連続で低下しており,地方創生の効果は基本的に確認できない。
地方創生2.0でも同じ失敗を繰り返してはならず,これまでの施策の何が間違っていたのかの認識を深めることは重要だ。様々な間違いがあるが,その一つとしては「出生率の低い東京が全国から若い女性を惹きつけ,その結果として,日本全体の出生率を低下させている」という誤解(①)や,もう一つは「地方の若者が東京に流入する主な段階は,大学等の進学時点である」という誤解(②)が大きい。
確かに,東京の合計特殊出生率は全国で最下位であり,誤解①が広がるのは分かる。だが,これは一面的な見方であり,2020年の国勢調査データから,都道府県別の平均出生率(未婚を含む出産可能な15~49歳の女性人口1000人当たりの出生数)を計算すると,東京は31.5で最下位でなく42位となる。都心3区(千代田区・港区・中央区)に限定すると,その平均出生率は41.7で,1位の沖縄(48.9)に次ぎ,2位になる。
では,誤解(②)はどうか。まず,住民基本台帳人口移動報告(2023年)から,2023年での東京への流入超過は男女計で約5.8万人になっている。これは,東京から流出3.8万人と流入9.6万人との差だが,この流入9.6万人のうち,15歳~19歳が占める割合は14.5%に過ぎず,20歳~24歳が占める割合は63.6%,25歳~29歳が占める割合は21.8%にもなっている。20歳~29歳で85.3%も占める。
大学等の進学は通常は18歳,就職は22歳や23歳が多いことから,地方の若者が東京に流入する主な段階が大学等の進学時点というのは誤解であり,就職時点であることは明らかだ。また,以上のデータは男女別でも概ね同じであり,男性の場合は15歳~19歳が占める割合は13.9%,20歳~29歳が占める割合は86%,女性の場合は15歳~19歳が占める割合は15.1%,20歳~29歳が占める割合は84.6%となっている。なお,学校基本統計(令和5年度)のデータを精査すると,東京都内への大学進学者のうち,1都3県の高卒者で既に約7割,関東圏の高卒者で約8割弱も占めていることも分かる。
政府は東京一極集中の是正を目的に23区内での定員増を原則禁止する規制を一時的に設けているが,ターゲットが完全に間違っている。人々の移動を抑制するのは愚策なので筆者は基本的に賛成しないが,政府が本気で地方の若者が東京に流入するのを抑制したいなら,就職段階での対応を検討する必要があろう。いずれにせよ,政府は「証拠に基づく政策立案」(Evidence Based Policy Making)を推進しているが,間違った前提で政策を実行すれば効果が無いのは自明である。効果的な政策を実行するには,最低限,正しい情報やエビデンスに基づき分析をした上で,政策を立案する必要がある。
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