世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.590

シェールLPガス革命の進行

橘川武郎

(東京理科大学大学院イノベーション研究科 教授)

2016.02.08

 アメリカで2000年代半ばから本格化したシェール革命は,天然ガス,LP(液化石油)ガス,原油の供給のあり方を大きく変え,世界のエネルギー構造全体を変革するインパクトを発揮しつつある。シェール由来の天然ガスの日本向け輸出も,いよいよ2017年にスタートする見通しであるが,それより先行して実現したのがシェール由来のLPガスの輸入である。シェールLPガス輸入は2013年に始まり,徐々に規模を拡大しており,その影響力は,東アジア市場で支配的であったサウジアラムコのCP(契約価格)制を揺るがすまでになっている。

 筆者は,シェール革命の本場であるアメリカ・テキサス州を,2012年4月,13年9月,14年3月,15年8月の4回にわたって訪れた。12年と13年は主として都市ガス会社,14年は三菱ケミカルホールディングズ,15年はLPガス大手のTOKAIグループの方々と,それぞれご一緒させていただいた。

 2012年にまず訪ねたのは,テキサス州バーネット地区にあるフォートワース市内のChesapeake社の掘削現場とQuicksilver社の水圧破砕現場であった。その後,シェールガス田の見学は,敷居が高くなったと聞く。シェール革命をもたらした水平掘削,水圧破砕,マイクロサイスミック(割れ目形成の際に発生する地震波を観測・解析し,割れ目の広がりを評価する技術)の3大技術革新の実態を目の当たりにすることができた貴重な機会となった。

 2012年には,テキサス州からさらに足をのばして,隣州のルイジアナ州にあるCheniere社のサビンパスLNG(液化天然ガス)基地も見学した。シェールガス革命の発生によりCheniere社は,ビジネスの重心をLNG輸入からLNG輸出へ180度転換し,4系列年産1500万トンのガス冷却設備を建設して,全米の先陣を切りLNG輸出を開始する準備を進めていた。すでにイギリスのBGグループ,スペインのFenosa社,インドのGAIL社,韓国のKOGAS社と,LNG供給の長期契約を締結済みだった。

 それから1年半後,2013年にテキサス州西部のイーグルフォード地区にあるEnterprise社のヨーカムプラントを訪れた際には,シェールガス革命がある変容を遂げていることを告げられた。アメリカでの天然ガス価格の下落を受けて,メタン中心のドライなリーンガスを産出するシェールガス田の開発,生産にはある程度ブレーキがかかり,プロパン,ブタン等を含み付加価値が高いウエットなリッチガスを産出するシェールガス田に,開発,生産の重点が移行していたのである。

 Enterprise社のヨーカムプラントでは,近くのイーグルフォード・シェールガス田で産出されたリッチガスをパイプラインで集め,それからメタンとNGL(天然ガス液)を分離,生産していた。NGLの生産能力は日産14万4000バレルに及び,北米一の規模を誇っていた。2012年に竣工したばかりのプラントはピカピカで美しく,シェールガス革命の新たな主役にふさわしいたたずまいが印象的であった。

 2014年には,Enterprise社のヨーカムプラントから送られるNGLの受入れ地区となっているヒューストン郊外のモントベルビューを訪れた。シェール革命の本格化によりアメリカの化学工業は息を吹き返し,国際競争力を一挙に強めたが,なかでもシェール革命の恩恵を最も受けたのはエタンクラッキングのビジネスである。モントベルビューに程近いベイタウンで建設中であったChevron Phillips社の年産150万トンのエタンクラッカーの威容は,きわめて印象的だった。

 2015年にヒューストンを訪れると,14年夏以来の原油価格下落の影響で,原油・天然ガス関連サービス分野の雇用は減少していた。しかし,パイプライン輸送分野の雇用は堅調な伸びを維持しており,シェール由来のガスを原料とする化学産業関連の設備投資はむしろ勢いを増していた。それを象徴するように,シェールオイル・ガス田での生産自体を事業対象とせず,パイプライン事業や貯蔵事業,卸売事業を主業とするEnterprise社は,積極的な拡張戦略を続けており,いつのまにか「フォーチュン500」の第56位にまでかけ上がって,「シェール革命の申し子」とも言える存在になっていた。

 ヒューストンシップチャネルに面したEnterprise社の輸出基地では,冷却施設や港湾設備の新増設が活発に行われていた。そこで,VLGCと呼ばれる4万4000トン級の大型LPガス輸出船を目の当たりにすることができたことは,幸運であった。

 エンパイアステートビルをすっぽり入れてもなお余りある,巨大な地下岩塩内貯蔵庫を30箇所以上も擁する,ヒューストン郊外モントベルビューのエンタープライズ社の加工・貯蔵基地でも,大規模な拡張工事が続いていた。道路をはさんだ反対側では,同社のライバルであるタルガ・リソーシズ社も,設備投資に余念がなかった。

 2015年のEnterprise社本社(ヒューストン)訪問時には,パナマ運河まで足を伸ばした。同運河を,太平洋側から遡上し,ミラフローレンス閘門を抜け,ペドロ・ミゲル閘門の先まで航行した。進行方向左側の陸上では,パナマ運河の拡幅工事が行われていた。この拡幅工事が完成すると,VLGCがパナマ運河を通過できるようになる。喜望峰回りであったため,これまでを45日かかったVLGCのテキサス・日本間の航海日数は,22日に短縮される。シェール革命は,「シェールLPガス革命」が先導する形で,日本経済に肯定的な影響を及ぼし始めている。

関連記事

橘川武郎

資源・エネルギー

アングロアメリカ

最新のコラム