世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.589

原油価格低迷と新興国・途上国経済の構造転換

福田佳之

((株)東レ経営研究所 シニアエコノミスト)

2016.02.08

 原油価格がこのところ急落している。2014年後半からの原油価格の下落は15年央にかけて一時持ち直したが,15年後半に入って再び下落した。特に15年11月以降の下落は顕著であり,12月のOPEC総会において加盟国間で減産の合意がまとまらなかったことも下落を促進した。

供給超過の原油市場

 最近の原油価格の下落について原油の供給超過の影響が大きい。原油需要の観点では,暖冬に加えて,世界経済の回復の遅れ,中でも新興国・途上国の成長低迷から,原油需要が低迷している。中国は投資主導から消費主導の経済構造に切り替えるために構造調整を行っており,資源がぶ飲み型の経済からの脱却を図っている。そのため,今後も原油需要の担い手として期待できない。一方,原油供給の観点では,OPECなどの産油国が増産しており,米国のシェールオイルも高水準の原油生産を続けている。この結果,15年10−12月時点において原油供給が同需要を日量188万バレル上回っている(国際エネルギー機関)。同時期に中東等で地政学的緊張が発生しているが,原油市場では材料視されていない。

 他にも,米国の金利引き上げで投資家の資金が原油などのリスク資産から安全な先進国国債にシフトしたことやイランの経済制裁解除で同国産原油の世界市場への流入観測も原油価格の下落を助長している。

油価低迷のデメリットとは

 原油価格の下落は燃料費低下の恩恵を受ける自動車などの販売増をもたらすだけでなく,油価下落分が他の消費に回ることもあって輸入国の購買力増加につながり,経済を活性化させるというメリットがある。その一方,油価低迷によるデメリットを懸念する声が大きくなってきた。

 具体的には,①原油は金融商品として組み込まれているため,原油価格の急落は金融・株式市場を混乱させる,②資源輸出が伸び悩むことで資源国の購買力が低下して世界経済を鈍化させる,③資源国の歳入不足等から国内政治の混乱や地政学的緊張が発生して為替相場等に影響を与える,ことである。これらのデメリットは複雑に絡み合って相互に影響する。今後,原油価格の低迷は世界経済にメリット・デメリット両面の影響があり,総合的に把握する必要があるだろう。

資源価格低迷は新興国・途上国にとって試練

 市場の需給動向を考慮すると,原油などの資源価格は,今後2,3年以内に本格反転するとは考えにくい。このことは大半の新興国・途上国にとって試練である。2000年代に入って新興国・途上国の経済成長が加速したが,中国などの例外を除いて原油など天然資源の生産・輸出主導によるものであった。2000年代前半と2010年代前半の新興国・途上国174カ国の鉱業と製造業のGDPに占めるシェアを比較すると,鉱業が1.4ポイント増加したのに対して,製造業は1.0ポイント低下している。輸出の内訳をみても,途上国の天然資源輸出のシェアが1.9ポイント増加したのに対して,製造業の輸出は1.6ポイント低下している。

 新興国・途上国の経済成長は資源多消費型であり,成長すればするほど資源を大量に消費するため,天然資源を持つ新興国・途上国は輸出を増やして成長することができる。こうして2000年代に途上国・新興国は天然資源輸出と高成長の好循環を続けてきた。しかし,今後は逆の循環が発生するだろう。すなわち資源価格低迷が低成長をもたらし,新興国・途上国が資源輸入を減らす。そしてそのことが資源価格を低迷させ,経済が落ち込むのである。

 このような悪循環を止めるには,新興国・途上国は天然資源主導型から製造業等主導型の経済に切り替えていかねばならない。そのためには今度こそ外資誘致など製造業強化策に力点を置く必要があるのではないだろうか。

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