世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本経済の見通しは上方修正も回復持続に不安:民間調査機関の経済見通し
((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)
2025.08.25
日米関税協議の妥結で日本経済見通しは上方修正へ
2025年4-6月期のGDP成長率(一次速報値,2025年8月15日)が発表され,季節調整済み前期比0.3%,同年率1.0%と増勢がわずかながら拡大した。なお,1-3月期についても改訂され,当初のマイナス成長からプラス成長に更新されたことで,当期までで5期連続のプラス成長となった。注目されていた4-6月期の実質輸出は前期比2%となったが,これは,①アジア向け半導体関連輸出が増加したこと,②トランプ関税の影響を受けた自動車の対米輸出が,単価を引き下げることで輸出量の低下を抑えたこと,が大きい。なお,北米向け輸出は3月から5月にかけて前月比で落ち込んでいたが,その後は下げ止まる兆しがある。
こうした情勢変化を踏まえながら,民間調査機関15社は日本経済の実質経済成長率見通しを明らかにした。8月22日時点までで2025年度の経済成長率について各調査機関平均では0.7%と見込まれており,相互関税発表後の5月時点の同0.4%から上方修正されている。上方修正の要因として,25年4-6月期の成長率が予想以上に上振れしたことに加えて,7月22日に日米関税協議が妥結されたことが大きい。この妥結で相互関税率が15%に低下し,かつ日米間の貿易等において先行き不透明感が下げ止まったことで経済活動が動き出すと考えたためだ。とはいえ,相互関税発動前に発表した経済成長率見通し(1.0%)までは回復していない。
輸出見通しはプラス転換 だが,ばらつきあり
これらの見通しについて需要項目別にみると,大きく修正されたのは,住宅投資と輸出である。2025年度の住宅投資の調査機関平均見通しは3ヵ月前の時点では0.6%とプラス成長を見込んでいたが,直近の同平均見通しでは▲1.3%とマイナス成長に転落した。これは25年度以降の建築基準法・建築物省エネ法の改正による規制強化を避けるための前倒し着工が前年度末に生じていたが,その反動減が予想以上に大きかったためだ。ただ住宅投資そのもののGDPに占める割合が小さいこともあって日本経済全体の成長率見通しに大きな影響を与えていない。
もう一方の輸出の同平均見通しは3ヵ月前の時点では▲0.4%のマイナスを見込んでいたが,直近見通しでは2.0%とプラス成長に戻っている。日本だけでなく,EUや韓国等も米国との関税協議が一段落しており,世界の輸出を巡る不透明感が下げ止まったことが大きい。ただ今後については,スマートフォンや半導体などの製品別関税賦課が予定されているため,油断はならない。実際,輸出見通しについても上位3社平均は2.6%だが,下位3社平均は0.5%と各社の輸出の先行きの見方についてばらつきがある。
製品別関税賦課の行方に注意
なお個人消費や設備投資の見通しについては上方に修正されており,輸出等の先行き不透明感悪化の下げ止まりが効いているといえる。ただし,個人消費は食料品価格上昇の影響もあって実質賃金がプラスに転換する年末以降までは本格的な回復を期待することができない。
今後の日本経済の先行きに影響を与える材料は,先にも述べたが,トランプ政権による半導体やスマートフォン向け等の製品別の関税賦課の行方である。関税賦課による輸出企業の負担増大や輸出低下もさることながら,こうした政策の発動で先行き不透明感が再び悪化に向かい,日本の個人消費や設備投資を下押しする恐れがある。とりわけ個人消費の回復を支える賃金は最近大きく上昇してきたが,トランプ関税による企業収益の悪化で賃金上昇が止まった場合には,日本経済の内需が冷えこみ,不況に向かう恐れもある。このようにトランプ関税で脆弱となった日本経済が別のショックで大きく経済減速する恐れに注意が必要だろう。
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