世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
勢力図がかわるアジア食流通市場
(在サウジアラビアPhoenix社 役員)
2025.02.24
サウジアラビアの首都リヤドに,今年1月,中国のハイパーマーケット“Wemart Hypermarket”(以下Wemart)がオープンした。オープン当初は平日の夜でも店内をゆっくり回れないほどの混雑ぶりであった。Wemartでは生鮮食品,アジア系野菜などが販売され,様々なアジア料理が楽しめるフードコートも併設されている。
Wemartは2006年に華人企業であるWenChaoグループ(温超集団)がドバイで起業した小売業で,当初は在ドバイの中国人をターゲットに開店したが,2025年にリヤドに大型店を出店するまでに成長した。現在では幅広く主に中国,日本,韓国などの商品を扱っており,日本でもおなじみのアイスクリームや,ドリンク類,お菓子,調味料に加え「和牛統一マーク」がついた黒毛和牛などが手に入る。また,アジア料理に使われる野菜もUAEのドバイ自社農場で製造しているため手ごろな値段で販売されており(サウジアラビアでも農場建設の契約をすでに行っている),アジア系食品スーパーのダイナミクスが大きく変わっていくことが容易に想像できる。
アジア系のスーパーはサウジアラビアの各都市に点在しているが,Wemartレベルの大規模アジア系スーパーマはなく,またアジア系の食材が豊富な品揃えで,かつ,手ごろな価格で購入でき,さらに,フードコートで多様なアジア料理が楽しめるのは現在Wemartのみである。
Wemartにはいくつか注目すべき点がある。先ず,多種類のアジア系野菜の豊富さが挙げられる。加えてアジア料理に欠かせないキノコ類の豊富さもWemartならではといえる。二つ目はアジア系冷凍食品の豊富さだ。中華系の鍋用食材や餃子などの冷凍食品から,讃岐うどん等を含めた日本や韓国の冷凍食品が手に入りその種類は非常に豊富である。三つめは,Wemartは小売りのみでなくアジア食品に関して自社農場での生産,食品の輸出入,ロジスティクスまで包括的にビジネスを行い拡大してきた点である。そのビジネスモデルにおいてインド系のハイパーマーケットluluとの類似点が多く見られる。また四つめとして他のアジア系スーパーではアクセスできていない顧客層にリーチできている点である。これまでのアジア系スーパーは,在留アジア人や,ある特定のアジア食品のコアファン,アジア系の飲食店が主な顧客であり,それ以外の人が特に足を運ぶ場所ではなかった。しかしWemartは,アジア系のファーストフードを数多く揃えたことで,通常アジア系スーパーに足を向けない顧客層をも取り込むことに成功した。
日本食,日本のお菓子に対する潜在的な需要や期待は高く,日本の個々のお菓子ブランド認知度はそこまで高いわけではないが,“日本製の抹茶関連製品”,“日本のゆず関連製品”などといった需要は高い。また,サウジアラビア人が日本に旅行に行く際には,帰りのスーツケースに日本のお菓子を箱買いしたものを詰め帰ってくる者も少なくなく,またお土産でもらったスナック類がおいしかったため,わざわざ海外の日本スナックを扱うサイトから箱買いをするケースもあり,日本のお菓子に対する興味・関心は高い。Wemartには日本の地名を冠したカステラや,日本のお菓子に見えるようなスナック等も販売されているが,日本製ではないものも多い。特にカステラなどは日本のカステラの味とは似て非なるものであるが,日本語や中国語が読めない人からすれば,これがカステラだと思ってしまうという残念な状況が発生している。
かねて日本食品をサウジアラビアへ輸出してきた製造業者は,代理店や商社機能を持つ企業を仲介としているケースがほとんどであり,比較的小さめのアジアマーケットはドバイから仕入れているケースも多い。サウジアラビアの日本食関連輸入販売業者は日本の製造業者との直接取引を望んでいるが上述の既存の輸出入業者がいるため,そのような会社から購入せざるを得ず,さらには国内物価の上昇に合わせて仲介業者は意図時に利幅を上げているため,輸入販売業者は薄利多売で利益を稼ぐしかない商材も少なからず抱える。サウジアラビアの大手輸入業者でもこの状況に陥っているところがあり,この状況を打開するために彼らは常に新規の直接取引できる製造業社を探している。
10年以上前にサウジアラビアや湾岸でのアニメIP(著作権)の話を日本の関連省庁及び企業にしても,「アジア・欧州しか見ていない」と一笑に付されていた時代があったが,今はアニメIPをもつ日本企業はサウジアラビアに関わろうと必死である。同様に,食品においても市場サイズだけ見れば,アジアには劣るかもしれないが,購買力や日本製品への興味でいえば比較的未開拓で無視できない市場になっているのがサウジアラビアと言える。その様な中で,食品やレストランに関しても,サウジアラビアの地場資本や海外資本の日本食レストランは現在増え続けており,「日本で製造された」,「日本の本物」に対する需要は非常に高い。近く開幕の大阪関西万博で,日本への関心はさらに高まると予想され,この需要を日本企業がサウジアラビアでうまく生かせるかが成功へのカギとなると思われる。
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