世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3306
世界経済評論IMPACT No.3306

拡大するサウジアラビアの不動産市場:窓のサイズから見える変化

川合麻由美

(在サウジアラビアPhoenix社 上級コンサルタント)

2024.02.19

 サウジアラビア(以下,サウジ)の首都リヤドでは,以前は「郊外」であった北部地区にも居住エリアが驚くような速さで拡大しており,他都市でも同様な都市化が進んでいる。リヤド北部は2030年にEXPOの開催が決定しており,今後一層都市機能の拡充が急進すると予想されている。

 サウジでは2017年には,約160万人が政府住居プログラムの待機リストに登録されていた。住宅需要は2021年で99,600件であったが,2030年にはおよそ二倍の153,000件になると予測されている。現在の人口増加率は1.59%であり,30歳以下が60%以上を占める若年人口が非常に多い国であることがこの背景にある。

 サウジの包括的発展を目標に,成長戦略として策定された「Vision 2030」には,このような住宅需要の改善が含まれており,これに基づき各種の不動産に関するプログラムが設立されている。その中の一つの,「SAKANI」は,2030年までに国内世帯の住宅所有率を70%にまで高めることを目標に,サウジ住宅省と不動産開発基金(REDF)が2017年に設立したプログラムである。同プログラムでは,ポータル上で不動産アドバイス,最初の持ち家の不動産取引税証明書の発行,土地契約,建築許可証の電子発行のほか,受益者に優遇措置のある融資などのサービスも提供している。また,SAKANI掲載の不動産は品質と建築基準を満たし,政府監査を受けたもののみとなっており,依然として横行する建築基準を満たさない不良不動産から消費者を守る働きも担っている。このプログラムにより,2022年末には住宅所有率が2016年の47%から60%以上に増加した。

 一方,不動産賃貸の分野では,賃貸契約者向けの「EJAR」という政府ポータルがある。これは賃借人を家主の不正行為から保護し,家主に対しては信頼性と強制力のある賃貸契約を提供するというものである。EJARは,契約から請求書・領収書の発行,支払いといった一連の手続きがオンラインで完了できる上,何らかの問題発生の際には法務省のポータル(Najiz)に,EJAR上での契約書番号を記入しクレームすることができる(サウジでは司法サービスの90%以上がデジタル化されている)。EJARには現在までに450万件以上の賃貸契約が登録されている。

 サウジの不動産市場は前述の支援プログラムや高需要に支えられ著しく変化・急成長しているが,住宅街を通るだけでもその変化が見て取れる。窓のサイズや様式を見るだけで,アパートにおいては新築と古い物件がすぐに判別できるほどである。ヴィラやコンパウンドのような住居では大きな窓は以前からあったが,従来サウジのアパートは窓のサイズが非常に小さく作られていた。これは強い日差し,夏の高温,強風による砂塵を防ぐという実用的機能である。文化的背景としては,プライバシー保護という機能もあった。また,古い物件は一階のみならず二階にも窓に格子がついていることが多い。シングル男性用のアパートの中には,窓がついていたとしても通気口に面していることがあったり,リビングルームは窓が全くなかったりという部屋も少なくなかった。最近のアパート物件は以前と比べて採光を考慮したものが多く,またかなり大きな窓も使用されるようになっており,国が海外に向けて開けていくのを示しているかのようである。

 Maqam Real Estate 社の物件管理販売マネージャーであるMr. Salman Alqahtani氏によると,物件人気エリアはリヤド北部だ。理由は,北部に事務所を構える企業が増えていること,エンタメ施設が多いことだそうだ。物件はSafa社, Majdiyya社, Ajlan Riviera社といった大手デベロッパーによる建築物件がモダン,スタイリッシュであり,日当たりを考慮していることから人気が高いと言う。空き物件は長くとも一か月待ちで,平均3-5日で借り手が決まり,早いものは1日で決まるものもあるそうで,売買,賃貸問わず取引量は2019年以降急増しているとしている。

 サウジの人的資源・社会開発大臣アハメド・アルラジ氏は,不動産開発の雇用創出と分野の不動産分野の推進力となっていると述べている。ドバイ不動産市場との大きな違いは自国民からの高い需要だ。しかし,この高需要は単なる不動産バブルではない。各種の規制や不動産関連の政府ポータルが整備されたサウジの不動産市場は堅実であり,今後も年平均8%といった高い成長が見込まれ,海外からの投資も増えると予測されている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3306.html)

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