世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「出力制御」対象の再エネでビッドコインを作る:アジャイルエナジーXの挑戦
(国際大学 学長)
2024.11.11
株式会社アジャイルエナジーXは,東京電力パワーグリッドからスピンオフしたベンチャー企業で,分散コンピューティングシステムを利用して余剰電力や未利用再生可能エネルギーを即時にデジタル価値に転換する事業スキームをもつ。
2024年5月,上越新幹線上毛高原駅から車で15分ほどの距離にある,同社の久呂保(くろほ)マイニングサイト(群馬県昭和村)を見学する機会があった。同サイトでは,主として太陽光発電で得た電力と一部系統電力を使って,ビットコインマイニングの実証試験を行なっている。
ビットコインとは仮想通貨のことである。そして,ビットコインマイニングとは,取引などのデータをブロックチェーンに保存する作業を行い,その報酬としてビットコインを得る行為のことである。各国の法定通貨については,銀行がその取引を承認する。ところがビットコインの場合には承認者がいないため,第三者がコンピュータを使って検証を行いブロックチェーンに登録して,はじめて取引が成立する。この検証行為の対価としてビットコインが支払われるのだが,多数のコンピュータを駆使しても,検証が成功する確率は高くない。それが鉱石を掘り当てる作業に似ているため,「マイニング」と呼ばれるのである。
アジャイルエナジーXのユニークなところは,このビットコインマイニングを,再生可能エネルギーの高度利用と結びつけた点にある。太陽光や風力などの再エネ電源については,需要減退時に送電線が混雑した場合,「出力制御」が行われて,運転ができなくなる。大きな社会的ロスが生じるわけであるが,このロスをなくすため同社は,出力制御時にも再エネ電源の運転を続け,そこから発生する「余剰電力」をビットコインマイニング用に活用する。余剰電力の発生状況に即時に対応することができるビットコインマイニングは,ロス扱いされてきた余剰電力からデジタル価値を生み出す優れものなのである。
久呂保マイニングサイトは,東京電力リニューアブルパワーの社宅跡地を使っている。敷地内には,出力50kWの太陽光発電装置と,百葉箱を大きくしたようなビットコインマイニング装置の建屋とが,存在する。これらは,いずれも遠隔操作されており,実証試験は無人で行われている。
ボウボウに生い茂った雑草を掻き分けて,建屋に近づく。指示に従い長靴を用意してきて良かったと,実感した。建屋の中には,9列×6段の並ぶ54機の小さなコンピュータ装置(エーシック)が,けなげにマイニング作業に従事していた。コスト抑制のために,いずれも中国製の中古品である。快晴の日の正午前後に訪れたため,フル稼働に近い状況であった。電源の大半は敷地内の太陽光発電装置の発生電力だが,起動時などには部分的に系統電力も使うそうだ。
久呂保マイニングサイトは空冷式で冷却しているため,建屋からは温風が排出される。アジャイルエナジーXは,この排熱利用を起点に,DAC(直接空気回収),溶融塩電解装置,アクアポニックス(陸上養殖と水耕栽培を組み合わせた次世代循環型農業)等と結びつけて,「究極の循環経済」をめざすプロジェクトも始めている。その流れで,2027年の国際園芸博覧会へ向けて,横浜市との連携も強めている。今後のアジャイルエナジーXから目が離せない。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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