世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
石炭からアンモニアへの転換が本格始動:JERA碧南火力発電所再訪記
(国際大学 学長)
2024.10.14
2024年6月1日,名古屋マリオットアソシアホテルで,JERA碧南火力発電所燃料アンモニア利用開始記念パーティーが,盛大に挙行された。パーティーに先立って,車で1時間強の距離にある同発電所見学のバスツアーも行われた。
じつは,今回の見学の約2年半前,21年の年の瀬に,碧南火力発電所を訪れたことがある。21年10月に始まったばかりだった,同発電所5号機での燃料アンモニアの小規模利用試験を見学したのである。この小規模利用試験のねらいは,材質の異なるバーナを用いて実証試験用バーナの開発に必要な条件を確認することにあった。
そのころすでにJERAとIHIは,24年度には碧南火力発電所4号機において,アンモニア20%混焼の実証試験を行うことを予定していた。最初の小規模試験を5号機で行い,のちの実証試験を4号機で実施したのは,定期検査のタイミングとの兼ね合いと,両機が同一設計であるという事情によるものだった。
「小規模利用試験」と言うだけあって,21年当時,5号機で行われていた作業は,けっして大がかりなものではなかった。5号機建屋内で,2本のバーナノズルを使って金属材料の耐久性評価を行っていた。建屋の外では,5号機にアンモニアガスを引き込むための細いパイプが接合されていた。そのガスは,すでに脱硝装置で使われているものを転用していた。
しかし,今回再訪して驚いた。アンモニア20%混焼の実証試験を実施している4号機の周辺には,いくつかの専用装置が新設されていた。球状の多面体の形をした2000㎥収容のアンモニアタンクが屹立しおり,その下部は防護壁に囲まれていた。隣には万が一の漏洩時にアンモニアを水溶し無害化するための水槽と,多数の散水設備が配置されていた。アンモニアを運ぶための,埠頭とタンク,タンクと4号機ボイラを結ぶパイプも視認できた。埠頭には,ちょうどカタールからアンモニアを運んできた2万2000トンの運搬船が停泊中で,荷下ろし作業を行なっていた。どの装置もピカピカで,日本と世界のエネルギーの未来を拓くフロンティアの佇まいを見せていた。
カーボンニュートラルのためには,太陽光や風力のような変動電源を多用しなければならない。変動電源にはバックアップの仕組みが不可欠であるが,蓄電池はまだコストが高いし,原料面で中国に大きく依存するという問題点もある。したがってバックアップ役として火力発電が登場することになるが,二酸化炭素を排出する従来型の火力発電ではカーボンニュートラルに逆行してしまう。そこで,燃料にアンモニアや水素を用いて二酸化炭素を排出しない,あるいはCCUS(二酸化炭素回収・利用,貯留)を付して排出する二酸化炭素を回収する「ゼロエミッション火力」が必要になる。つまり,ゼロエミッション火力なくしてカーボンニュートラルはありえないわけである。
JERAの碧南火力発電所では,燃料中に占めるアンモニアの比率を,27〜28年には20%,30年代前半には50%まで高めようとしている。その先にあるのは,アンモニア専焼のゼロエミッション火力である。同発電所で始まった燃料のアンモニア転換の動きには,まさに「日本と世界のエネルギーの未来を拓くフロンティア」と呼ぶにふさわしい意味がある。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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