世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
いっそう裏金疑惑を深めた政治資金改正法:無視される国民の知る権利
(早稲田大学・文京学院大学 名誉教授)
2024.07.29
2024年6月,参議院本会議において与党の賛成多数で,「改正政治資金規正法」が成立した。大学教授が告発し,東京地検特捜部が動いた自民党派閥のパーティ資金キックバックの政治資金収支報告書への不記載から生じた「政治とカネ」問題への対応であった。
2024年1月,東京地検特捜部は,安倍派,二階派,岸田派の会計責任者ならびに現職国会議員3人ら計10人を,政治資金規正法違反の罪で起訴・略式起訴した。多くの派閥所属議員で不記載が判明したが,会計責任者との共謀は認められないとして立件されなかった。
改正法の中身として,第1は会計責任者のみならず議員の責任を厳しくするため,議員本人が収支報告書の内容が適法だと確認する「確認書」の提出を義務づけた。
第2は,パーティ券の購入については,購入者の氏名や住所などを収支報告書に記載する義務があるが,その公開基準を「20万円超」から「5万円超」へ引き下げた。送金記録の残る銀行口座振り込みが原則とされ,収支報告書のオンライン提出が義務付けられ,書類はインターネット上で公開される。
第3は,使途の公開義務がないためブラックボックス化した,政党から議員個人に支給される政策活動費について,政策活動費を受け取った議員は政党に年月や項目ごとに使途を報告することと規定された。政党は議員からの報告を受けて収支報告書に記載し,総務省に提出する。年間の使用上限を設定し,10年後に領収書や明細書を公開し,政策活動費の使途などを監視する第三者機関を設置するとした。
この改正法の中身は,一見基準が厳しくなったようにみえるが,本質的な問題はほとんど解決がなされていない。裏金問題は解決されるどころか,合法的に裏金づくりがなされる可能性があるのではないかと危惧せざるを得ない。
改正法の問題点の第1は,野党が求めていたものは,ほとんど受け入れられなかったことであろう。政策活動費や調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開あるいは禁止,議員も会計責任者と同等の責任をおく「連座制」の導入,企業・団体献金などの禁止については織り込まれなかった。与党は,野党に「反対ばかりではなく,対案を提出せよ」というが,自らに都合の悪い野党の提案は受け付けない。
第2の問題は,岸田文雄首相による独断と問題の本質のすり替えが行われたことであろう。キックバック資金の不記載の問題が生じると,岸田首相は早々と「党政治刷新本部」を設置し,規制法改正に取り組む姿勢を打ち出し,問題の本質を解明することを避けようとした。さらに,岸田首相自らの派閥に記載もれが発覚すると,政治刷新本部での議論に入る前に,自らの派閥を解消し,他の派閥にも解散を求めた。裏金問題は派閥や派閥幹部の処分問題にすり替えられてしまった。
また,首相は「衆議院政治倫理審査会」に唐突に出席し謝罪をした。しかし,「調べたが分からない」とし,自ら言いたいことを述べたに過ぎない。この結果,一部の派閥の関係者はこの倫理審査会に出席せざるを得なくなった。ところが,出席した全員が「自分は知らない,秘書や会計責任者にまかせていた」といった内容の発言をし,真相は何も明らかにはならなかった。対象者44人におよぶ議員については,本人たちが証言のための出席を拒んでしまい,なんら説明はなされずじまいで参議院でも同様であった。
問題に関与していたのではないかと巷間噂された森喜朗元首相に真偽のほどを確かめるとして,首相自ら電話で話をし,当人に関与はなかったとした。さらに,党紀委員会での十分な議論を尽くす前に,安倍派の幹部の処分を決定した印象は否めない。一方で,5年間で50億円もの政策活動費が流れていた二階俊博元幹事長については,次期選挙に出馬しないという理由で何の処分もしなかった。さらに,他の派閥の不記載とは異なるとして,自らの派閥の会計担当者が略式起訴されたにもかかわらず,首相自らの処分は課されなかった。
第3の問題は,2024年5月後半に衆院政治改革特別委員会で,各党が提出した政治資金規正法案の実質審議の内容である。自民党は,政治資金は広く薄く集める努力が大事で,企業・団体による献金や事業収入は許容されると述べ,常に政治にはカネがかかると主張した。しかし,なぜ,どのように政治にカネがかかるのかは明らかにしなかった。
折しも,7月になると自民党の堀井学衆議院議員の公職選挙法違反問題が明るみに出た。選挙区内の有権者に,秘書や親族らを通じて,裏金を使った葬式の香典や枕花などを配ったことや,私的な流用が明らかになりつつある。裏金がこのような使われ方をしたとすると,その使途を明らかにできないのは当然としかいいようがない。
今回の裏金問題のみならず,これまで多くの不祥事が生じている。その都度,問題の原因や過程を検証・追求するのではなく,問題の争点をずらしてごまかす形が取られた。そして,問題はすぐに,総裁選挙や代表選挙,国政選挙や政権交代など政局と結びつけられた。マスコミでも,ワイドショーやニュースショーでこうした政局が取り上げられ,いつの間にか問題の本質に迫る調査報道は姿を消してしまった。
不祥事が起こるたびに,「丁寧な議論」「丁寧な説明」が謳われる。しかし,それは自分の言いたいことを言うのではない。「なぜ」「どのように」と,原因(理由)と過程が国民に対して明確になされなければならない。今回の改正政治資金規正法の成立過程では,問題の原因と過程はほとんど明らかにされなかった。透明性と厳罰性を欠く今回の改正政治資金規正法は,いっそう裏金問題に対する疑惑を深める結果になったといえよう。
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