世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3328
世界経済評論IMPACT No.3328

「擬人化プロジェクト」は日本の活性化につながるか?:ブームの兆し。ご当地キャラの進化系となる可能性も

宮本文幸

(桜美林大学 准教授)

2024.03.11

 「燈の守り人」というアニメや萌えキャラのような2次元キャラクターが多数集合するビジュアルが目を惹く。全国各地の灯台を擬人化し,スマホの縦読みマンガやSNSのボイスドラマ,朗読劇などを展開するメディア・ミックス・プロジェクトが2020年に始まった。各キャラクターは,その灯台の歴史や文化的なエピソードをもとに制作されている。GPSの普及などで従来の役割が薄れつつある灯台の魅力を再発信しようという試みである。

 類似の手法としては,他にセブン・アンド・アイ・ホールディングスのアリオなどの店舗をアニメキャラで擬人化する「棚照結神・擬人化プロジェクト(2021年~)」,三谷バルブの製品を擬人化する「MITANI擬人化プロジェクト(2023年~)」,小樽市の歴史的建造物を擬人化し魅力を伝える「小樽歴建×擬人化プロジェクト(2023年~)」,日本酒を擬人化し世界各国の料理とマリアージュする魅力を発信する「CRAFT SAKEプロジェクト(2022年~)」,ラグジュアリーホテルを擬人化する「BRILLIANT HOTELS」プロジェクト(2023年~)などがある。「擬人化プロジェクト」の手法はブームの兆しを見せている。

 かつて地域活性化策の一環でご当地キャラクターがブームとなった。世界的に認知された「くまモン」や,TVのバラエティーにひっぱりだこだった「ふなっしー」,「ひこにゃん」などが注目を集め一定の経済効果をもたらしたといえよう。今回の擬人化プロジェクトは,これら「ゆるキャラ」と比べると,より精緻でリアルなアニメのイケメンや萌えキャラのようなビジュアル系なのが特徴だ。その手法としてのルーツは日本刀をイケメンの刀剣男士に擬人化したゲーム「刀剣乱舞(2015年~)」や競走馬をアイドル的な女の子に擬人化した育成ゲーム「ウマ娘プリティーダービー(2016年~)」などにあると推察する。

 日本の経済といえば,つい先日は34年ぶりの株価最高値更新で盛り上がったが,長年の低迷でGDPはドイツに抜かれ世界4位となるなど長いトンネルから抜けられない状況だ。現在,この擬人化プロジェクトは製品,店舗,文化遺産,家紋,温泉などの様々なカテゴリーを対象としているが,日本経済低迷の要因の一つが人口減少に伴う地域の過疎化にあることやアニメ文化の海外人気などを考えると,インバウンド需要との連動が最も大きな経済効果につながる可能性があるのではないだろうか。コロナは収束し,外国人観光客数が復活するなどインバウンド需要は回復してきている。地域の活性化を求める動きと企業活動が,日本のお家芸ともいえるアニメ文化と融合できれば世界からの注目も集め,大きな経済効果が期待できるだろう。その視点からすると,灯台擬人化プロジェクトが成功事例としての先鞭をつけてくれることを期待したい。全国各地の灯台が個性的な魅力で注目され,世界中の観光客が訪れるキッカケになればと願う。

 そもそも擬人化とは私たち人間に備わった本能でもある。私たちは得体のしれないものほど擬人化して理解し安心したいという心理が働く。その象徴は神様である。目に見えず聴こえもしない実体の無い神様を人は古来から擬人化し崇拝してきた。

 マーケティングの研究分野でも擬人化は消費者に親しみや愛着を感じさせるなどのプラス効果が指摘されてきた。私の研究でも消費者は潜在的に化粧品を擬人化認識していることや,キャップを頭,ボトルを身体に見立てる傾向,容器の特定の形や色によって人間的な特性であるブランド・パーソナリティが形成されることなどもわかってきている。

 消費者の需要を喚起する方策として,対象となる製品やサービスとは一見関係のないモチーフを外見デザインやネーミングなどに活用することで「注意」「興味」「検索」などの意向が大きく高まりヒットにつながるメカニズムがわかっている。「銀イオン」をイメージ・モチーフに活用した殺菌デオドラントのエージープラス(Ag+;現在のエージーデオ24)や「卵」をイメージ・モチーフに活用したストッキングのレッグス(L’eggs)などがその顕著な事例である。(イメージ・モチーフ理論,インサイト・アウトサイト思考:書籍『ゼロ・プロモーション・マーケティング』参照)。

 擬人化プロジェクトも灯台や店舗などと一見関係のないイケメンや萌えキャラがモチーフとして織り込まれており,そのギャップが「注意」「興味」を喚起するといえる。それが本当のヒットに結び付くためには,その後のプロセスである「検索」「納得」「興味(変化)」「試用」「口コミ」などにつながっていくか否かである。これら後半の購買促進プロセスが働くかどうかはイメージ・モチーフとその対象(製品,店舗,サービスなど)との間の意味付けやストーリー,さらにはその対象に対する新しい意味付けや価値の再発見がなされるのか,という観点が重要となり,そのためには意図的かつ繊細なマーケティング戦略とマーケティング要素の作り込みが求められよう。盛り上がりつつある「擬人化」プロジェクト。今後の展開に期待し注視していきたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3328.html)

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