世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3855
世界経済評論IMPACT No.3855

美貌の経済学:容姿と収入格差の驚くべき現実

宮本文幸

(桜美林大学 教授)

2025.06.02

 昨年の女優の年収は,綾瀬はるかさん(6億5500万円)を筆頭に有村架純さん(5億7000万円),石原さとみさん(4億3800万円)など美女ばかりが並ぶ(2024年最新版女優年収ランキングTOP15, LOST NEWS, 2024/10/31)。女優は特殊な職業だから,とは言い切れない。「美人(男女とも)は生涯で3,500万円も多く稼ぐ」ことが経済学・統計学上で裏付けられているのだ。

 ダニエル・S・ハマーメッシュによる『美貌格差』に示された数々のデータがこの事実を示している。美貌が収入や雇用機会に与える影響は,想像以上に根深く,またグローバルに共通する経済現象なのである。

 たとえば,アメリカでは他のすべての要因(学歴,年齢,健康状態,職歴など)を調整したうえで,美しいと評価された人は,容姿が劣るとされる人に比べて生涯で約23万ドル(約3,500万円)も多く稼ぐという。つまり,ただ見た目が良いというだけで,ゆとりの老後資金にも匹敵する「経済的見返り」が得られていることになる。

 オーストラリア,カナダ,韓国,中国(上海),イギリスなど,世界各国で同様の傾向が確認されており,美しさが収入に正の相関を持ち,反対に容姿が劣ると評価された人々には明確な不利益が存在する。

容姿が「資本」として作用する社会

 企業が容姿を重視する背景には,見た目の良い従業員が売上や顧客満足に直接影響を与えるという側面がある。たとえば,化粧品販売員や弁護士,営業職など,対人接触の多い職種では,見た目の良さが顧客との信頼関係や購入行動に影響を与える。相手の見た目も製品やサービスの一部なのである。一見,製品とは関係なさそうな企業の重役の容姿とその企業の売上の関係も同様である。オランダでは,容姿が全体の上位84%に位置する重役を抱える企業は,下位16%の容姿の重役がいる企業よりも,平均で7%も高い売上を記録していたなど様々なデータが示している。

 「若い=美しい」という認識も,容姿格差に影響を与える。アメリカでは,18~29歳の女性のうち約45%が「美しい(5点満点で4点以上)」と評価されたが,50~64歳になるとその割合は18%に下がる。美の評価は年齢と共に変化するというよりも,年齢そのものが美の評価に影響する構造だ。それでも,若いときに「美しい」と評価された人は,年を取っても相対的に高い評価を維持しやすい傾向にあるという。このことは,キャリア初期に美貌を活かして得た人脈や信頼が,後々まで影響を及ぼしている可能性を示唆している。

 一部には「見た目が良くても頭が悪ければ意味がない」と考える人もいるかもしれない。だが,研究では,知能の高さと美貌の経済効果には相関があることが示されている。頭が良い人ほど「美しさのアドバンテージ」を活かしやすく,逆に知能が低い場合,「美しくないことによるペナルティ」がより強く作用する傾向が見られた。これは,美貌が「きっかけ」として機能し,能力が「成果」として問われる社会構造を映しているのかもしれない。つまり,見た目が良ければ最初の扉が開きやすく,その後は能力が成果を左右するという二段階の選別が行われている可能性がある。

美しさを高める3つの習慣

 このように美しさを高めることは,何よりも個人の幸福感を高めるだけでなく,社会的・経済的にも個人にプラスのチャンスやメリットをもたらす。そのためには日ごろから美しくなる習慣に取り組んでほしいと思う。本稿の最後に著者の経歴(化粧品マーケター、ヒトとモノの売れる“見た目”研究)から,おすすめの3つの美容習慣を記しておく。

1.「笑顔」でいること

 笑顔は他者に想像以上の好感を与える。例えば標準的な美しさの女性が街角に立つとき,無表情よりも笑顔のほうが約5倍も男性から声を掛けられることが実験で証明されている。さらに笑顔は自分自身の心を明るくしホルモン分泌や免疫力にもプラスの効果をもたらすなど体内にもよい効果がある。

2.紫外線ケア

 肌老化の要因の約8割は紫外線によることが多くの研究で報告されている。すなわち紫外線をしっかり防止すれば「10年で2歳分しか年をとらない」ことになる。著者も長年励行しているが,顔だけなら年間2,000円台のサンスクリーン2本で足りる,コスパの良い美容習慣といえる。

3.錯覚を利用したメイクアップ

 近年,メイクアップは女性だけでなく若い男性にも普及してきている。ナチュラルメイクのテクニックも化粧品自体の進化とともに向上している。見た目の錯覚を利用すれば,目の大きさや目と目の間の距離(遠心顔や求心顔)などの印象を30%くらいまで変化させることが可能である。美容整形をしなくても,顔の印象は手軽に変えられるのだ(著者YouTube参照)。

 日本経済が停滞して長い。私たち一人ひとりが美容習慣を通して美しく幸せな日常を送れるようになるだけでも想像以上の経済効果がもたらされることと思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3855.html)

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