世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
世界の将来予測シナリオ:世界をリードする4グループ群の設定と日本
(東京国際大学 特命教授)
2024.02.19
シェル社のシナリオ
昨年2023年には,いくつもの将来エネルギー予測が国際機関,研究機関あるいは大手エネルギー企業から発表された。その内で,筆者が特に注目したのはシェル社が発表した2100年に向けてのシナリオである。同社の今回のシナリオは,エネルギー安全保障に重点を置くとともに,世界がどのような考え方,あるいは政策や戦略に牽引されて,いかなる方向へ向かうかを考察した内容となっている。
一般に,シナリオを考える際には,将来は「こうあるべし」という規範的かつ演繹的に未来のある時点の状況を設定し,それでは現状からどのような施策をとっていく必要があるかを考える方策がある。
その一方,探索的かつ帰納的に考えて,現状から出発して想像できる限りのイノベーションなども織り込みながら将来像を探るという方策もあり得る。
どちらが優れているという訳ではなく,演繹的と帰納的の両方の考え方を並べてみることで,様々な発見と示唆が得られる。
シェル社の2023シナリオでは,規範的かつ演繹的なSkyシナリオと,探索的かつ帰納的なArchipelago(半島)シナリオを設定している。
さらに,2100年という遠い先の世界を目標年として,良い意味で,(あるいは,良くない意味でも)「牽引していく国家グループ」を考察しており,その国家群として以下の4種類が提示されている。
- (1)環境派の国々(Green Dream)
- (2)イノベーションの勝利者国(Innovation Wins)
- (3)長城国策の諸国(Great Wall of Change)
- (4)新興国群(Emergent Surfers/ Rising Surfers)
以上の4つのグループが今後の世界を引っ張っていくと見ており,それぞれのグループにどのような諸国が含まれると考えられているかが重要となる。
(1)環境派の諸国としては,環境先進国を謳い2050年の「脱炭素」を目指してパリ協定の1.5℃達成のためCOP会議を引っ張るEU諸国がある。
(2)イノベーションの勝利者国としては,資源エネルギーを豊富に持ち,かつ社会変革・先進技術の導入と活用に積極的に取り組む国々として,米国とUAE(アラブ首長国連邦)をあげている。さらに,資源豊富な国として,カナダ,オーストラリア,それとUAEに加えて中東湾岸の産油国も挙げられている。また,英国もこのグループに属するとされており,これはシェル社の本社がある英国において,北海での風力発電の導入などにより,シェル社の業容が大きな発展を遂げることへの期待も込めた英国の推挙であると筆者は考える。
(3)中国がこのグループの代表である。中国は,自国内の市場は大きいと述べて国内向けの投資を世界から誘い,かつファーウェイ,BYDのように,自国企業を徹底的に国がサポートし,他方,米国発の企業であるテスラへの対抗心を中国政府が隠さないように,万里の長城のような壁を築く国というグループ分けがなされている。
この同じグループには,ウクライナに侵攻したロシアなどが今後含まれてくる可能性があると考えられる。
(4)インドを筆頭とする発展の余地が多くあり,高成長を持続させ始めた諸国がこのグループである。インドは,海外からの投資も拡大を続けており,人口も世界一位で,依然増加しており人口ボーナス期にある。中国経済が急減速する中,インドに続く発展途上の諸国は,世界の次の牽引役となることが期待される。
途上国群の中には,政治的に混乱・失政が生じることで,発展するグループから脱落する国が出てくるのは間違いないが,数多くの途上国中,インドに続き,いくつもの国が登場し,投資ブームを招くと予測できる。
日本の居場所
シェルシナリオ2023の4グループの提示は,たいへん興味深い分類である。今後の各国の政権と政策の選択と,世界のパワーの角逐の中で,より一層,影響力を高めると予想される国々と,むしろ影響力を低下させる国の両方が生じるはずである。
課題となるのは,上記4グループのカテゴリーのいずれにも,日本は含まれることは難しいという点である。EUと同じく,CO2排出削減に日本政府が熱心であっても,日本は,化石燃料依存度が高く,輸入資源に依存しており,自立を図ることは容易でない。従って,資源豊富国のグループに入ることは難しく,途上国グループと比べても,明らかにインフラや社会制度の整備の差異は大きく,また,中国等の権威主義国グループに属することも望んでいない。
それでも,近隣諸国と主義主張を揃えてグループを形成できると,今後2100年に向けて発展の方向性を打ち出すことができる。そうした候補となるのは,例えば,東南アジア諸国であるが,日本と東南アジア諸国が共通のグループとなるだけの大きな目標を持つためには,シェルのシナリオに,第5のカテゴリーとなる概念を付け加えるほどの構想力と準備が必要となる。日本における課題の認識と議論の深化が期待される。
- 筆 者 :武石礼司
- 分 野 :国際経済
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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