世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3281
世界経済評論IMPACT No.3281

中国経済と米大統領選がもたらす東アジアの課題

清川佑二

(元 日中産学官交流機構 理事長)

2024.01.29

 2024年の世界は,中国経済の停滞とトランプ大統領再登場の可能性で,これまでの趨勢が大きく変化し始めている。

1.世界の安全保障体制の再検討が必要になった

 トランプ氏がニューハンプシャー州の共和党予備選に勝利して再び大統領になる可能性が高まり,世界はこれに備えざるを得なくなった。

 トランプ氏は,大統領就任の即日ウクライナ戦争は終わらせる,援助は停止する,NATOには何も支援しないと公言している。プーチン大統領にとっては,来年まで頑張ればウクライナ占領地を確保できそうだから,戦争継続に励みがでる。欧州諸国とNATOは,米国の支援がなくなる事態も考慮して,ウクライナ支援と加盟国防衛の在り方を検討しておく必要に迫られている。

 東アジアでは,7年前にトランプ大統領が誕生した際にはTPPを脱退し,中国に対しては一方的に高関税を課した。再度大統領に就任すれば即日IPEFは死ぬと述べ,他方では主要品目の中国依存をやめると公言している。

 先進国首脳はG7広島サミットでロシア・中国に対する米欧の足並みを揃えることに成功したが,トランプ氏はG7の結束にとらわれない可能性が大きい。欧州でも東アジアでも,西側自由圏の結束が破れた場合のことも考えざるを得なくなっている。

2.中国経済の停滞は長引き,米中の緊張は高まる

 中国政府は経済の大きな落ち込みに対して,改革開放,景気支援に力を注いでいる。しかし外国から見ると,停滞の大きな原因の一つは,反スパイ法による恣意的逮捕を恐れて外国人が中国に行かなくなったことである。

 12月の共産党中央経済工作会議は2024年の経済運営の大枠を決定したが,決定では「中国経済光明論を鳴り響かせなければならない」としている。さらに,スパイを取り締まる国家安全部は公式アカウントで,「中国の衰退」,「安全保障が発展にとって代わる」,「外資を排斥する」,「民間企業を抑圧する」などの言説を許さないと警告している。

 中国の全組織が「中国経済に光明が見える」宣伝活動を始めている。光明が見えると書かなければ疑われるから中国好調論が至る所に現れ,問題指摘は目につかなくなった。国家統計局も「数字の公布と解釈を良く」する方針を掲げて,統計の信頼性に疑念が生まれている。これらの動きは,共産党幹部が反スパイ法に触れることが出来ないことを示唆している。経済停滞の原因が手当されなければ,停滞は長期化することになる。

 他方で,習近平総書記は,経済よりも「社会主義現代化強国」建設という党大会決定を優先しているようだ。そのためにも台湾統一と南シナ海・尖閣諸島の領有化が重要だ。習総書記は尖閣諸島で「1ミリたりとも領土は譲らない」と強硬に指示し,南シナ海については国連仲裁裁判所の判決を無視して九段線(現十段線)内の領土化を実現するために一方的な現状変更を強行しようとしている。南シナ海は世界の船舶の航行が極めて多い枢要な海域であり,中国が領土化し上空域までも領有支配することを許せば,世界は深刻な悪影響を被る。これに対して米国は「台湾海峡の平和と安定」のため,および南シナ海の中国領土化を防止するために同志国とともに「航行の自由作戦」を続けており,米中の緊張が高まっている。

3.東アジアには新しい発展方式が必要になった

 中国の経済は停滞し米中関係の対立は激化して,東アジアの状況は大きく変化を見せている。域内の国も企業もこの大きな変化に対応しなければならないが,その際は特に次の2点を考慮に入れる必要がある。

1)中国経済の「逆回転」傾向を見極める

 これまで中国には世界から資金が流入し,輸出が増加し,高い経済成長を実現してきた。しかし昨年来,中国への直接投資は前年よりも減り,中国の金融証券市場から外資も中国資金も米国と日本に流出し始めた。輸出も前年よりも減り,企業もベトナムなどに移っている。若年層の失業率は高く,経済はマイナス成長だったとの噂が根強い。

 中国を世界第2の経済大国に押し上げた諸資源は,今や流出し始めて経済が逆回転を始めたように映る。中国市場に依存していた国々はこの変化で痛手を受けおり,この逆回転の傾向が続けば世界の経済構造も変化が始まる。

 中国経済の変調に直面して,ASEANや日本・韓国は経済成長の新しい方式を探さなければならなくなっている。

2)南・東シナ海の軍事衝突のリスクに備える

 米国と同志国の「航行の自由作戦」に対して中国軍艦は挑戦を繰り返して,米中両軍間の緊張は激化している。加えて北朝鮮は韓国を「主敵」と宣言した。

 日本は台湾海峡有事,尖閣防衛を想定して防衛予算を大幅に増加したが,トランプ氏が再登場すれば対立は遥かに厳しくなると思われる。南・東シナ海は米中の戦争に最も近い状態になっており,日本とっても軍事衝突時の危機管理と危機に備える経済安全保障を早急に強化することが重要になっている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3281.html)

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