世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3845
世界経済評論IMPACT No.3845

日本の革新的太陽電池活用の早期実現を

高多理吉

(富士インターナショナルアカデミー 校長)

2025.05.26

 パリ協定は国連気候変動枠組条約締約国会議で2015年に採択された2016年に発効した地球温暖化対策に関する国際的な枠組みである。

 同協定は,長期目標として,気温上昇を1.5°Cに抑えることを目標とし,脱炭素社会の実現を目指している。

 ところが,トランプ政権は1期目の2020年にパリ協定を離脱。バイデン政権下で再び加盟したが,トランプ2期目の就任初日2025年1月20日に再離脱を国連に通告し,27日に正式離脱したた。

 世界第2位の温室効果ガス排出国アメリカの離脱で,地球温暖化対策の後退は避けられない情勢である。

 このような情勢下にあって,我が国は,脱炭素の切り札として,世界の最先端を行くペロブスカイト太陽電池の実用化に向け,各団体,各企業が取り組んでいる。

 ペロブスカイト太陽電池とはPerovskite Solar Cell(PSC)のことで,その構造,用途の多様性,我が国の強み,従来の太陽電池との違い,将来性について,以下に述べる。

  • 1.PSCはメチルアミン,鉛,ヨウ素などの結晶構造からなる発電層の表裏をフィルムで挟む構造となっている。
  • 2.PSCは極めて薄く,形状をいかようにも曲げることができ,用途は,既存の太陽電池が設置困難なガラス窓,ビルの側面,耐荷重が小さな屋根などに設置が可能である。
  • 3.日本は,主原料のヨウ素の世界シェアの約3割を占める世界第2の生産国である(第1位はチリで,約6割のシェア)。
  • 4.従来の太陽電池が占める平地面積あたりの設備容量は,日本が世界最大で,広い面積を持つアメリカの31.3倍を占めている。これが,PSCに変われば,広大な面積が農業用地などに転換可能であり,大都会の高層ビルの電力需要を満たすことも可能で,将来性は大きい。

 世界では,中国,英国,ポーランドなども開発が急速に進められており,先端を行く日本もPSC実用化を早急に進め,各国からの需要に応えられる状況を実現することが強く望まれる。

 日本政府は「グリーンイノベーション基金(GI基金):2兆円」(2050年カーボンニュートラルの実現に向けて経済産業省とNEDOが立ち上げた基金)で,公募・採択されているものは,20プロジェクト(2024年8月時点)ある。

 PSCに対する需要は,世界的に極めて大きいものがあり,仮に,東京,大阪のような大都市の電力需要をPSCで賄えるというような実績を作れば,世界各国からPSCの設置を求める声が高まることは間違いない。そうなれば,製造業界,設置業界とも雇用が増え,失業率の低下にも貢献できる。

 世界的な,脱炭素とパリ協定の目標達成に日本が貢献すれば,我が国への評価も高まり,他の活動への波及効果も期待できる。その意味で,革新的太陽電池PSCの早期の実用化が強く望まれる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3845.html)

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