世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3487
世界経済評論IMPACT No.3487

少子化と日本の将来

高多理吉

(富士インターナショナルアカデミー 校長)

2024.07.15

 最近,我が国で少子高齢化問題が話題となることが多い。少子高齢化とは,年齢別人口構成が逆ピラミッド化することである。つまり,人口別で見た低年齢の層が細く,高齢者の層が太くなることである。これは,「総人口が減ると同時に,働き手が減少し,経済成長も鈍化し,現行の年金給付水準にも問題を及ぼす」ことを意味する。

 つまり,少子化は究極的に国家衰亡への道と言われる。このまま,国家の対策,国家の哲学・方向性が明確化されなければ,正に衰亡への道をたどることになろう。しかし,筆者は別の考え方に立ち,日本の持つメリットを生かせば,希望ある将来性を描けることを本稿で論述する。

世界おける日本の少子化の位置づけ

 一人の女性が生涯に産む子供の数の平均値を『合計特殊出生率』というが,人口維持には,2.06から2.07が必要とされている。

 世銀発表数字(2021年)で,世界の合計特殊出生率と,その傾向,日本の位置づけを見てみたい。合計特殊出生率のトップは1位がニジェール6.82でおしなべてアフリカ諸国が上位を占めている。日本は197位で1.30,最下位が211位で韓国の0.81である。

 人口を0歳から年齢順に並べて数え,ちょうどまん中にあたる人の年齢「中位年齢(中央年齢ともいう)」(2020年)がアフリカ全土では19.7歳と,同年の日本の中位年齢48.4歳と比較すれば,アフリカの人口構造が極めて若いことが分かる。逆に,日本の高齢化が際立っていることもわかる。

 総じて,先進各国の中位年齢は日本に近い高い数値となっている。先進国に共通する要因を見てみると,女性の社会的地位の向上に伴う晩婚化や,結果としての高齢出産による少子化,また出産費用,子育て費用の上昇など経済的要因があげられよう。さらに,日本では夫婦で働かなくては,家計が保たれなくなっていることもあげられ,少子化に拍車を掛ける要因となっている。

日本の少子化の原因と将来像

 経済が成長した1980年代以降の傾向を見ると,女性の社会進出が一定程度進む一方で,前述のように非婚化・晩婚化も進み,少子化の一要因となってきた。

 政府統計データで,平均初婚年齢の推移を見ると,1980年は男性27.8歳,女性25.2歳であったのが,2020年には,男性31.0歳,女性29.4歳と晩婚化が進んだ。男性も,低賃金の非正規雇用者の増大で非婚化が増大している。

 国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来の人口推計値によると,日本の総人口は2020年国勢調査による1億2,615万人が,2070年には8,700万人に減少するとされている。そして,生産年齢人口とも称される15~64歳人口は,戦後一貫して減少し,1995年の国勢調査で8,726万人とピークに達したものの,その後減少局面に入り,2020年国勢調査では7,509万人となっている。将来の15~64歳人口は,出生中位推計の結果によれば,2032年,2043年,2062年にはそれぞれ7,000万人,6,000万人,5,000万人で,2070年には4,535万人まで減少する。

少子化対策

 1994年に文部・厚生・労働・建設(すべて旧省庁名)の4大臣合意によって「今後の子育てのための施策」いわゆるエンゼルプランが策定された。

 さらに,1999年には「少子化対策推進基本方針」に基づき,①保育等子育て支援サービスの充実(低年齢児の受け入れ枠の拡大,延長・休日保育の推進等),②仕事と子育て両立のための雇用環境整備(育児休業普及率の引き上げ,短時間勤務制度の拡充等),③働き方についての固定的な性別役割や職場優先の企業風土の是正,等を重点的に推進する「新エンゼルプラン」(大蔵・文部・厚生・労働・建設・自治の6大臣合意)が策定されたが,それでも少子化の歯止めには至らなかった。このため,2003年に「次世代育成支援対策推進法」及び「少子化社会対策基本法」,2004年には「少子化社会対策大綱」が策定された。

 このように,矢継ぎ早に,政府の少子化対策が打ち出されてきたが,それでも少子化は止まらない。

 日本では,結婚するまでは,親と同居することを当然とする社会的通念があり,成人未婚者の約7~8割が親と同居している。30年以上前の筆者のイギリスにおける経験では,成人が親と同居していることは自立心のない証拠とされ,イギリス社会では評価されなかった。日本は,世間体を重視する慣習があるためか,就労と同時に親元を離れた後も,子供への干渉が多く,例えば結婚に関しても,無条件に子供の希望を認めるという親は少ない。子供の方も,超過重労働のブラック企業に就職し,命の危険を感じ退職して親元に出戻り,その後も,良い就職先が見つからず,親元に居ついてしまうケースもある。

考え方の転換

 少子化を逆手に取った考え方を国家哲学に導入することで,日本の将来に希望を持たせることは現実性があると筆者は考える。その考え方を下記に列挙する。

 AI(人口知能)・ロボットの発展により,人類はより生産性の高い分野で働く余地ができる。この際,少子化国家はこのメリットを享受できるが,膨大な人口を抱える国家は,逆に人口が足かせとなる。日本は,世界に誇る先進技術をたくさん持っている。例えば,アフリカの砂漠地帯を緑の地に変える技術を持っている。進んだ風力発電技術や革新的な海水淡水化技術を用い,農地,森林を造成することもできる。CO2を出さない石炭火力発電技術も日本が持つ強みである。

 日本では優秀な外国人労働者が増えているが,日本の語学学校や専門学校,大学を卒業し日本での就労意欲をもつ外国人を活用することも,国全体の議論を踏まえたうえで一つの案となりうる。こうした目的の下,日本は,アジア,アフリカ,中南米などとの友好関係を対外政策の根幹とすべきである。またその前提として,人種差別は決してあってはならないことは言を俟たない。そうすれば,おのずと少子化問題にも希望の芽が見えてくる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3487.html)

関連記事

高多理吉

最新のコラム