世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3710
世界経済評論IMPACT No.3710

世界の資産・所得格差と課題

高多理吉

(富士インターナショナルアカデミー 校長)

2025.02.03

格差の現状

 「世界不平等研究所」(本部:パリ)の発表によると,世界の上位1%の超富裕層の資産は,2021年世界全体の個人資産の37.8%を占めた。一方,下位50%の貧困層の資産は全体の2%を占めるにとどまった。

 続いて,「国際NGO オックスファム」(本部:ケニア・ナイロビ)が2024年1月に公表した「不平等」をめぐる年次報告書によれば,5人の人物(テスラやスペースXのCEOイーロン・マスク,アマゾンの創始者ジェフ・べゾフ,オラクル創始者ラリー・エリソン,メタのCEOマーク・ザッカーバーグ,LVMHCEOベルナール・アルノーとその一族)が今後10年以内に少なくとも1兆ドル(約155兆円)の資産を持つ可能性があるとしている。

 中でも,世界一の富豪であるイーロン・マスク氏は現在すでに4300億ドル(約67兆円)の資産を有している。

 IMFの一人当たりGDP統計に基づく世界の最貧国は2024年で東アフリカの内陸国家ブルンジ(人口1324万人)で,世銀による同国のGDP総額は35.49億ドル(2023年)でイーロン・マスク氏の個人資産はブルンジのGDPの実に121倍である。このような驚くべき格差がもたらす,社会的影響は甚大である。

格差を促進したネオリベラリズムとその影響

 経済格差は,特に,英国のサッチャリズム,そして,米国のレーガノミクスによる新自由主義(ネオリベラリズム)により,顕著に拡大した。

 レーガン政権は,大規模減税・政府規制の緩和・安定的な金融政策・政府支出の削減などにより,経済の復興を計ったが,自由競争を奨励・促進したことにより,競争に劣後する業績のよくない事業者は市場からの撤退を余儀なくされた。これにより企業間格差が生じ,更に個人の実力主義を強調したため,貧富の格差も拡大し,加えて政府の介入を極力減らしたため,所得の低い人々も含め手厚い社会保障が受けられなくなった。

 このような経済格差は社会の分断をうながし,一部の富裕層と不満を抱えた多くの市民との間には必然的に軋轢が生まれた。米国の例に留まらず,全世界を見渡すと国家間の格差,国内の格差(原因は多様である)が明瞭である。

 現在,起きている戦争や内乱などで,世界の展望は希望とは対極の様相を示している。

日本の戦後は皆貧しかったが,不平等感は少なく,働けば生活が向上する希望に満ちていた。貧富の格差是正は,きわめて困難な課題であるが,人類が背負った大きな課題の一つである。

 自分ではどうにもできないという無力感が世界を覆っているように見えるが,全ての政治家,政治家を選ぶ国民の深い知恵が試されている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3710.html)

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