世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
EU,米アップル・メタ両社に巨額の制裁金:対米関税交渉を控え対応に苦慮
(駿河台大学 名誉教授)
2025.05.05
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は去る4月23日,巨大IT(情報技術)企業を規制する「デジタル市場法」(DMA)に違反したとして,米IT大手アップル(Apple)社に対して5億ユーロ(5億7000万ドル),「フェイスブック」などを運営するメタ(META)社には2億ユーロ(2億2800万ドル)の制裁金をそれぞれ科すと発表した。トランプ米大統領はEUの厳しいデジタル規制に対して,これまでに再三にわたって非関税障壁だと強い不満を示してきただけに,本格的な関税交渉を前に,EUの制裁金決定はいかにもタイミングが悪いといえる。
DMAは米国GAFAM(Google, Apple, Facebook(Meta), Amazon, Microsoft)に代表される巨大IT企業が支配的な地位を乱用することを防ぐ目的で制定され,2022年11月に発効した。欧州委員会がDMAに基づいて制裁金を科すのは初めてのことである。
欧州委員会によると,アップル社がアプリ配信サービス「アプリストア」で,アプリ開発業者が利用者を割安な他の手法に誘導することを阻む技術的・商業的な制限を設けていたとして,その排除を命じた。
また,メタ社に対しては,「フェイスブック」や「インスタグラム」での広告を巡り,違反が認定されたとしている。メタ社は23年11月,利用者に広告を表示しない有料プランか,閲覧履歴などの個人データ使用に同意して広告(追跡型広告)を表示する無料プランを選ぶかの二者択一のサービスを始めたが,欧州委員会はこのサービスがDMAに違反するとした。両社は60日以内に是正措置を取らなければ,追加の制裁金を科される可能性がある。
欧州委員会によるアップル・メタ両社に対する制裁金の決定は,巨大IT企業による市場の寡占を防ぐEUの確固たる方針を域内外に明確に示すためだった。ただ,米国とは相互関税を巡る交渉が本格化する時期と重なった。画期的なデジタル規制の推進と対米関係の両立に苦慮した結果,制裁金額を低めに抑えた可能性も考えられる。
トランプ大統領がホワイトハウスでメローニ伊首相と相互関税を巡って会談した際,EUのITデジタルサービス課税を問題視したという。トランプ氏が制裁金の多寡にかかわらず,更なる報復措置を取る懸念は大いにある。
トランプ大統領が相互関税を90日間停止すると決定したため,EUも報復措置を90日間留保することを決定し,関税合戦は一時休戦中だ。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は工業製品について欧米双方で関税をゼロにする「ゼロ対ゼロ」交渉をする用意があると表明しているが,英フィナンシャルタイムズ紙とのインタビューの中で,交渉が決裂した場合,より強力な報復措置として,米IT巨大企業に打撃となるデジタル広告収入などデジタルサービスに課税する可能性があると警告している。今後の欧米関税交渉の進展具合によって,制裁金問題が交渉決裂の火種になりかねない。
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