世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3801
世界経済評論IMPACT No.3801

欧州,二転三転のトランプ関税に全ての対応策を準備

田中友義

(駿河台大学 名誉教授)

2025.04.21

 トランプ米政権が次々に打ち出す関税措置が短期間のうちに,二転三転するなど,不透明感が強まる中,欧州連合(EU)はなかなか先が読めず,対抗措置を決めつつも,米国側との粘り強い交渉による解決に最大のプライオリティを置いている。EUが一番恐れているのは,相互の報復合戦のエスカレートがトランプ政権第一期のような欧米間の貿易戦争へと拡大することである。

 トランプ大統領は米国が多額の貿易赤字(2024年1,976億ユーロ)を抱えるEUを繰り返し厳しく非難している。同氏が第一期の2018年3月に仕掛けた鉄鋼・アルミ製品に対する各25%,10%の追加関税も同じ理由だった。今日に至るも米国の対EU赤字は目立った改善傾向を見せていないため,摩擦の火種は鎮火することなく残っていた。

 米国が2025年3月以降に発表した一連の追加関税措置のうち,EUが対象となる措置は,①3月12日から鉄鋼とアルミ製品の米国輸入に対する25%の追加関税(EUに対する鉄鋼の適用除外と鉄鋼・アルミ製品の関税割り当て制度廃止。鉄鋼については25%据え置き,アルミ製品は10%から25%に引き上げ)②4月3日から(EUなどからの輸入自動車に対する25%の追加関税(自動車の基幹部品への25%の追加関税は5月3日までに発動),③4月5日に導入の全世界から輸入に対する一律10%の関税,④4月9日に発動の相互関税措置で,米国が巨額の貿易赤字を抱えるEUに対して,5日発動の10%の上乗せ分を含めて20%となる。

 EUはトランプ政権の関税強化に対して報復措置をとるかどうか慎重に対応を検討してきた。対米対応については,EU内で意見が割れている。マクロン仏大統領やドイツのメルツ次期首相などEU大国の首脳は報復措置をとるべきだと強硬姿勢を示しているのに対して,メローニ伊首相やハンガリーのオルバン首相など他の加盟国首脳は反対あるいは慎重な姿勢を崩していない。EUの執行機関・欧州委員会のフォンデアライエン委員長は調整に苦慮している現状だ。

 そうした中,欧州委員会は4月15日から,米国の鉄鋼・アルミ製品への追加関税への対抗策として,米国の農産品,鉄鋼,家電製品などに最大25%の追加関税,貿易総額にして最大260億ユーロ相当を初めて発動することを決めた。EUは,米国産のバーボンウイスキー,ワイン,乳製品を報復措置の対象外とした。トランプ大統領がEU産のワインなどに高関税を課すと主張したため,主要生産国のフランスやイタリアが反対したためである。

 自動車輸入への追加関税に対する報復措置も検討しており,英フィナンシャルタイムズ紙によると,米国が強みを持つITサービスを標的にする案も浮上しているという。

 その後,トランプ政権は4月9日発動すると公表していた相互関税を90日間停止すると決定したため,EUも報復措置を90日間留保することを決定した。米国の決定の背景について,ディール(交渉取引)のための戦略的な変更だとする見方がある一方,相互関税による米国のドル安・株価下落・米国債下落のトリプ安の金融リスクの高まりによる国内経済への深刻な影響を恐れたこと,トランプ政権を支持するウォール街のヘッジファンド投資家たちから反発が強まったことなどから強硬姿勢を軌道修正したとの見方がある。

 ただ,4月11日に米国が輸入するスマホやパソコン等の電子機器について,相互関税の対象から除外すると発表していたが,翌々日の13日には,スマホ・パソコンなどを含めた半導体の追加関税を近々に新たに設定すると再度変更した。まだまだ,トランプ関税を巡る動きは流動的である。

 すでに,フォンデアライエン委員長はEUが工業製品について欧米双方で関税をゼロのする「ゼロ対ゼロ」の関税交渉をする用意があると表明している。一方で,「交渉が満足のいくものにならない場合,報復措置を発動する」と明言,「すべての選択肢はテーブルの上にある」として,引き続き硬軟両様の構えを維持する。

 朝令暮改のトランプ政権の関税政策の先行きを見通すことは困難だ。EUは,4月17日から先行して始まる日米交渉の成り行きを注目して見守っているところだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3801.html)

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