世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3267
世界経済評論IMPACT No.3267

気候変動改善技術の実行性

高多理吉

(富士インターナショナルアカデミー 校長)

2024.01.22

 2022年2月24日,ロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まった。その行く末が見えない中,23年10月7日,ガザ地区を実効支配するハマスがイスラエルへのロケット弾攻撃を開始し,イスラエル軍の強硬な反撃が続行している。この結果も見えないまま,より複雑化・拡大化の様相を見せている。

 人類は,第3次世界大戦の危惧さえも持ち,各国の一般市民は,事態の推移を見守るしかすべがなく,「希望」という青空を望むことが難しい状況にある。

 筆者が危惧を抱いているのは,このような深刻な状況の中にあって,戦争以上に,人類の先行きに,「気候変動」による地球の破滅的な環境破壊が進行していることである。

 これには,勝者も敗者もいない。人類全体の共通的危機感と連帯の構築で,対策が一刻も早く取られなければ,確実に人類は滅亡へ向かう道を急速にたどることになるだろう。

 本稿は,気候変動への日本の革新的技術の開発を紹介し,それをどの様に実行に移すか,私見を述べるものである。

1.革新的事例

(1)二酸化炭素分離・回収技術

 川崎重工業と公益財団「RITE」(公益財団法人地球環境産業技術研究機構)は,関西電力の協力を得て,同社の舞鶴発電所内に建設した固体吸収材を用いた分離・回収試験設備の運転を開始,2023年11月一般公開した。CO₂回収率は90%を目指している。

(2)夢の太陽光電池

 地上に降り注ぐ太陽光エネルギーは180,000TW(テラワット)であるが,人類が消費する全エネルギーは約18TWに過ぎない。いかに太陽光エネルギーの活用の余地が大きいかを物語る。

 この事実からも,太陽電池の重要性と可能性は無限ともいえる。積水化学工業は,従来型の太陽光パネルと異なる超軽量・超薄型(厚さ0.13ミリ)で,紙のようにペラペラで折り曲げも簡単な夢のペロブスカイト型太陽電池の開発に取り組んでいる。この夢の技術の発明者は,桐蔭横浜大学宮坂力教授である。

 従来の太陽光電池パネルの設置は,我が国の狭い平野での土地取得,住民の合意など難点が多かったが,これを解決し,飛躍的に太陽光エネルギーの利用を可能にするのが,ペロブスカイト型太陽電池だ。同電池は塗布(スピンコート)技術でも作成可能で,ビルの壁面など,従来の太陽電池が設置不可能であった場所にも設置できる。さらに,従来型に比べ,ペロブスカイト太陽電池は太陽光吸収係数が大きく,曇り空でも発電できることから,まさに画期的な夢の太陽電池である。しかも,ペロブスカイト型太陽電池の主原料はヨウ素であるが,我が国のヨウ素生産量は,チリに次いで世界第2位のヨウ素生産国なのである。

(3)強風に強い円筒翼型風力発電機

 日鉄エンジニアリング株式会社と㈱チャレナジーは,チャレナジーが開発する次世代風力発電機「垂直軸型マグナス式風力発電機」(以下,「マグナス風車」)に関する技術検討を共同実施する契約を締結し,マグナス風車のコストダウン等に取り組んでいる。

 マグナス風車は,従来のプロペラ式とは異なり,円筒翼を用いることによって,台風などの強風下でも風向・風速に左右されず,安定的に発電が可能である。マグナス風車は島嶼部での需要が高いとみられているが,すでに,フィリピンの国営電力公社と協業し,2021年から初号機を稼働させている。

(4)革新的な海水淡水化技術の開発

 WHO(世界保健機関)/UNICEF(国際連合児童基金)の調査によれば,2017年時点で世界の約3分の1にあたる22億人が安全な飲み水を利用できない状態にあると言われていたが,現在では,36億人が水不足に悩まされていると言われている。水問題は人類共通の重要課題なのである。これを解決する道筋は,海水淡水化である。

 筆者の住む福岡には,日本最大の海水淡水化施設(まみずピア)があり,一日に最大5万立方メートルの真水を製造し,混合施設でミネラルを混ぜ,水道水として福岡都市圏の約4割の世帯に水を供給しており,筆者もその恩恵に与っている。しばしば大学のゼミ生を施設見学に連れて行った。

 海水に接しているが,砂漠化して水の供給を得られない世界各地に海水淡水化施設を設置できればと考えるが,大きな電力を要する現在の技術を改善した,より低コストで高速に淡水化が可能な技術が望まれる。

 東京大学大学院工学系研究科の研究グループは,2022年5月に内壁をフッ素で覆ったナノチューブ「1ナノ=10億分の1メートルのチューブ(円筒)」を開発したと発表した。東大の開発したチューブの内径は0.9ナノメートルで,現在有力視されている次世代の海水淡水化方式「アクアポリン」(タンパク質の一種で,細胞膜を介して水分子だけを超高速で通す性質を持つ)の4500倍のスピードが期待できる水透過性能があるとされている。

2.実効性への我が国の展望

 日本は上記に挙げた画期的技術(一例をあげたに過ぎず,取り上げなかった企業も多くある)を全世界に向けて実行に移せば,日本に対する評価も上がり,友好国も増加することは間違いない。

 そのためには,政府が哲学を持ち,企業と行政の連携を促すための財政支援を実施し,国際的な特許の取得にも政府が支援・協力する必要がある。

 そして,まず,日本自身が自国の技術で,地球環境立国として確固たる地位を築くことである。それと並行して,近隣のアセアン・オセアニア諸国に連携の協力を求め,ひとつひとつ実例を積み上げていくことが求められる。

 中東,アフリカ,中南米等の途上国でも,強い期待が生まれることは必至である。ここに,政治的物差しで選定せず(戦争状態や内乱状態にある国家は除外),本当に困っている国を優先して,協力(当該国ができる協力は要請する)していくべきだと考える。そして,政府は国民が納得するような必要性(日本経済への貢献,外交力の向上など)を訴えかけ,財政支援を国家・国民が連帯して受け入れる素地を確立すべきであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3267.html)

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