世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本経済は景気後退入りの模様
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.05.26
輸出減から企業利益・設備投資減へ
5月16日発表の日本の1-3月期実質GDPは,前期比年率換算−0.7%と,2024年1-3月期以来のマイナス成長となりました。財・サービス輸出が実質ベースで同−2.3%と減少した一方,輸入が前期の減少の反動で同+12.1%と大きく増えたことが,影響しました。
輸出は,トランプ関税の影響で今後一段と減少するでしょう。輸出のGDP比と非金融企業経常利益のGDP比の2000年1-3月期以降の相関係数は0.905と非常に高く,輸出減少に伴う企業利益の減少が予想されます。さらに,企業利益の減少は,設備投資の減少を招きそうです。
停滞が続く実質家計最終消費支出
1-3月期には実質家計消費支出は前期比年率換算+0.1%と,前期の同+0.2%に続いて低い伸びに留まりました。実質家計最終消費支出は,コロナ禍からの回復後,物価上昇を受けて2023年4-6月期から4四半期連続で減少した後,賃金上昇や所得税減税により,2024年4-6月期,7-9月期には年率+3%前後の堅調な伸びとなりました。しかし,減税効果が薄れた上,消費者物価インフレ率が再上昇したことで,足元で勢いを失っています。
家計が体感する物価に近いと考えられる持ち家の帰属家賃を除く消費者物価指数の前年同月比は,2023年1月の+5.1%から一旦2024年1月には+2.5%まで下がりましたが,食品,エネルギーなどの価格上昇を背景に,昨年12月以降4%台で推移しています。消費者センチメントの指標である消費者態度指数(二人以上の世帯,季節調整値)は,2022年11月の29.9から2024年3月には39.5まで上昇しましたが,そこから下落に転じ,直近値の4月には31.2まで下がっています。輸出や企業利益の減少が雇用,賃金の伸びを鈍らせることで,実質家計最終消費支出は再び減少するでしょう。
有効な景気対策は乏しい
輸出,企業利益の減少が設備投資や家計最終消費支出の減少につながり,実質GDPのマイナス成長が続きそうです。日本経済は景気後退に入った模様です。
景気後退に対する有効な対策は乏しいようです。設備投資のGDP比は,2025年1-3月期には17.7%と,2000年1-3月期以降の平均値16.0%を大きく上回る高水準にあり,金融緩和を行っても設備投資が増える余地は小さいと考えられます。円の実質実効為替レートは,昨年7月を底に8%程度上昇していますが,歴史的に見れば依然として極めて円安水準にあります。今後,米国でも景気が鈍化して利下げが再開されれば,日本の方が金融緩和余地が小さい分,円高になりやすいでしょう。日本の金融緩和による円安が輸出,企業利益を回復させることも見込めません。
公共投資などの財政激策策を打つと,インフレ率が押上げられて,消費者センチメントがさらに悪化しかねません。その点では,消費者物価インフレ率の低下を狙って消費税率を引下げる方が,景気対策としては比較的効果がありそうです。ただ,1,2年程度の一時的引下げでは,家計最終消費支出が十分に回復しないうちに消費税率が再度引上げられ,消費支出が反動減によって一段と落ち込むことになりかねません。一方,消費税率の永続的引下げは財政状況を悪化させる懸念があります。
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