世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4036
世界経済評論IMPACT No.4036

拡大が予想される日本の所得・資産格差

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2025.10.20

再分配後の所得格差が大きい日本

 かつて1億総中流と言われた日本でも,格差社会の言葉に表されるように,近年,経済・社会的格差が拡大しているとの意識が高まっているようです。

 ジニ係数は所得分布等の不平等度の指標であり,0に近いほど格差が小さく,1に近いほど格差が大きいことを示します。OECDOECD加盟国において,世帯主が18~65歳である世帯の可処分所得ジニ係数によれば,日本はデータがある37か国中,格差が大きい方から10番目です。課税・社会保障受払い前の所得のジニ係数では25位と格差が大きい方ではありませんが,課税や社会保障による所得再分配の機能が弱いようです。米国は可処分所得でも課税・社会保障受払い前の所得でも5位,英国は課税・社会保障受払い前の所得では4位,可処分所得では7位であり,両国とも日本より所得格差が大きくなっています。ドイツは両方とも14位であり,課税・社会保障受払い前の所得では日本より格差は大きいものの,可処分所得では日本より格差が小さくなっています。フランスは課税・社会保障受払い前の所得では6位と格差が大きい方であるものの,可処分所得では23位であり,所得再分配機能が強いことがうかがわれます。

 世界的にロボットやAIなどの導入で製造業従業員やホワイトカラーなど中間層に該当することが多い仕事が減りやすいと考えられる中,所得再分配機能が弱い日本では,企業経営者や高度専門職と,企業にとってコスト面から見てロボットやAIで代替しにくい低賃金の労働者との間で所得格差が拡大しやすいでしょう。

日本の資産格差は先進国の中で中位程度

 所得や資産が上位層に偏ると,平均値は中央値よりも大きくなりやすいため,平均値の中央値に対する倍率も格差の指標となります。1世帯当たり家計純資産残高の平均値/中央値倍率によれば,日本はOECD加盟国のうちデータがある30か国の中で,格差が大きい方から18番目です。日本の資産格差は,所得格差に比べて相対的に小さいようです。

財産所得が家計所得に占める比率が上昇

 ただ,NISAやiDeCoなど,積み立て投資を通じて個人の資産形成を促進する制度の拡充により,今後,資産格差が拡大することが予想されます。所得が多いほど貯蓄率は高くなる傾向があります。また,所得が多いほどリスクが取りやすくなり,貯蓄のうち,高リスク・高リターン資産への投資に回す比率も高くなると考えられます。そのため,リスク資産へ投資できる金額の格差は所得格差以上に大きくなり,家計純資産残高の格差も長期的に拡大するでしょう。

 日本の家計の課税,社会保障受払い前の所得を,雇用者報酬,自営業者が得る営業余剰・混合所得,利子・配当収入などの財産所得に分けると,雇用者報酬の比率は1994年1-3月期の75.3%から長期的に上昇し,2022年4-6月期には84.7%に達しました。しかし,そこから下落に転じ,2025年4-6月期には82.1%に下がっています。一方,財産所得の比率は,バブル崩壊後の金利低下などの影響を受けて1994年1-3月期の10.8%から2005年10-12月期には5.8%まで下がりました。その後も7%前後で推移していましたが,金利上昇や企業利益の増大に伴う配当増を受けて2021年頃から上昇に転じ,2025年4-6月期には10.8%まで上昇しました。預貯金,債券,株式などの金融資産を多く持つ富裕層にとって有利な状況であり,所得格差と資産格差が相乗的に拡大する方向にあることを示しています。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4036.html)

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