世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
インドの消費段階と製造業生産の必要:アメリカ企業のデカップリング
(国際貿易投資研究所(ITI)客員 研究員・放送大学 客員教授)
2024.01.15
インドでは,平均所得ドルの向上により消費面でも質の拡大が予想される。また,生産面では「Make in India」政策と「経済特区」政策による外資誘致を通じた国内での中間財生産を含む製造業の育成が期待されている。
1.インドの消費面がインセンティブ
インドの平均所得2,600ドルは,3,000ドル目前である。これがアメリカ企業のデカップリングによるインドシフトを促している要因の1つと思われる。
(1)消費の質の高度化
第1に,ダーゲイ・ゲートリイ(2007)によれば,自動車購入は,1人当たりGDP3,000~10,000ドルの間で所得の伸びの倍のペースで保有が増加する(注1)。第2に,携帯電話の契約者数は11.7億人(2021年9月末時点)であり,人口比で見ると国民の8割以上に携帯電話が普及している(注2)。さらに携帯電話については高級機種へ移行する所得水準に近付いている。
自動車を購入できる所得水準の人口が増えた。また,携帯電話のiPhoneは,祭事商戦期の1週間で150万台が売れた(注3)。消費面にアメリカ企業がインドシフトするインセンティブがある。
(2)1人当たりGDP3000ドル目前
2023年4月時点でのインドの人口は,14億2860万人であり,中国の14億2570人を上回った。ASEAN全体人口の2倍以上である。
1983年の1人当たりGDPは,インドと中国とでほぼ同じの297ドルであった。ところが,2007年,中国が「転換点」を超えた2,691ドルに対してインドは半分以下の1,000ドル程度であった。2023年のインドの1人当たりGDPは,2007年の中国のそれとほぼ同じである。
(3)1人当たりGDPの格差
インドのGDPを州別に見ると,高い方でデリー準州の5303ドルドル,ゴア州5690ドルとベトナムよりは高いがタイよりは低いと言ったレベルだ。消費の質が高くなる可能性がある州は,タミル・ナドゥ州の3181ドル,カルナータカ州の3678ドル,グジャラート州の2807ドルである。それぞれの人口は,7125万人,6110人,6044人と一国規模の人口を持つ。
2.インドの生産面:中間財生産の奨励
(1)Make in India政策
第1次モディ政権は2014~19年,第2次モディ政権は2019~24年である。製造業における重点25分野は,自動車,自動車部品,電子機器,メディア,バイオ,宇宙工業,港湾,鉄道,製薬など(注4)であった。
「段階的製造プログラム」と呼ばれるものがある。関税を製造品目により段階的に賦課しするものだ。2018/19年度には,携帯電話の国内製造が2億9,000万台(約1兆8,120億ルピー)となった。輸入は,2,000万台(1,100億ルピー)である。携帯生産は,主にシャオミ,BBK(Oppo)(中国),サムスン(韓国),フォックスコン(台湾)といった外国企業が担う。携帯輸入額は,2014年74.3億ドルから2019年8.6億ドルへ減少した。インド国内需要の95%以上を国内製造である。(注5)
(2)中国からの中間財の輸入増大
インドにおける中国からの輸入割合は輸入全体の11.1%(2023年)であった。これはモディ政権下で減少し2017年には16.2%あったものが,2021年には15.3%になっている。インドの貿易赤字は解消するために中間財の国内生産は欠かせない。(3)製造業国内生産の奨励
生産連動型優遇策(Production Linked Incentive:PLI)」は,国内製造業を振興するため2020年度に導入された政策で,外資にも適用される優遇策である。対象産業は,携帯電話,主要原料(KSM),医薬品中間体,有効医薬品成分(API),医療機器,大規模エレクトロニクス(電子部品),自動車・同部品,医薬品,電子産業などで2021年度の対象分野募集分では電子産業の包括的な政策プログラム対象分野として半導体・ディスプレーが加わった(注6)。
2006年2月に発効したSEZ法およびSEZ規則,並びに1961年所得税法の第80IAB条がある(Kuchiki(2023)参照)(注7)。一定の要件を満たしていることを条件に,当該SEZが公告された年から15年間のうち最大10年間の法人税減免,原材料・部品の輸入関税免税を制定する。100%輸出指向型企業(EOU)として認定された企業は,「保税倉庫」としてのステイタスを付与される。携帯電話,自動車,半導体・ディスプレーなどが含まれる(注8)。
3.消費と生産の2面の外資の投資インセンティブ
インドは生産と消費の両面で外資にとっての魅力がある市場を目指している。第1に,インドの1人当たりGDPは,消費の質の高度化が始まる水準に達しつつある。第2に,インド国内での中間財の生産は,貿易赤字を解消していくうえで不可欠であるため,国内製造業生産奨励を生産連動型優遇策や経済特区政策により実施しており,外資にとって双方が投資のインセンティブとなっている。
[注]
- (1)Dargey, Joyce and Dermot Gately (2007)「Income’s effect on car and vehicle ownership,worldwide:1960-2015」The Energy Journal, October 2007. 野木森稔「アジア自動車需要の短期・長期展望―所得増と人口増を背景に市場規模は今後30年で3倍に―」,No.2019-034,2020年1月24日。
- (2)宇佐美紘一「インドの「今」を紐解く」,『ファイナンス』2022 May.(2023年10月22日アクセス)。
- (3)日本経済新聞,2023年12月16日。
- (4)「インド製造業振興策「Make in India」の行方,ギリ・ラム,三井物産研究所,2020年1月。
- (5)坂本純一「ジェトロ地域・分析レポート」2021年4月22日。
- (6)JETRO「インド 外資に関する奨励」2023年09月08日更新(2023年10月22日アクセス)。
- (7)Kuchiki, A. (2023) “Accelerator for Agglomeration in Sequencing Economics: “Leased” Industrial Zones,” Economies, 11(12), 295.
- (8)JETRO「インド 外資に関する奨励」2023年09月08日更新(2023年10月22日アクセス)。
関連記事
朽木昭文
-
[No.3561 2024.09.16 ]
-
[No.3472 2024.07.01 ]
-
[No.3463 2024.06.24 ]
最新のコラム
-
New! [No.3627 2024.11.18 ]
-
New! [No.3626 2024.11.18 ]
-
New! [No.3625 2024.11.18 ]
-
New! [No.3624 2024.11.18 ]
-
New! [No.3623 2024.11.18 ]