世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3118
世界経済評論IMPACT No.3118

中国の輸出競争に敗退するドイツ:EUの「デリスキング」への不安

田中素香

(東北大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2023.09.18

 中国経済は改革開放の40年間で最悪の苦境に陥っている。だが,今日の中国経済はマクロとミクロを分けて見ていく必要がありそうだ。

 トランプ政が2018年に始めた「米中貿易戦争」をバイデン政権は引き継いで,さらに厳しい通商政策を連発している。アメリカの輸入では2022年も中国が1位,金額は史上最大だった。しかし,23年前半の米輸入額では中国は3位に落ちて,メキシコ・カナダが上回った。

 だが,中国企業が最終組立を近隣のアジア諸国に移して米国に迂回輸出している可能性が高い。アメリカの対中輸入を2018年と22年で比較すると,対中国輸入シェアが10%以上落ち込んだ製造品で,インドと東南アジア6カ国(台湾を含む)からのアメリカへの輸入シェアが軒並みシェアを上げているのだ。タイやベトナムに中国のFDIが急増した。自動車関係では中国企業のメキシコ進出も起きている。

 EUはどうか。対中輸入額は2018年から22年で倍増した。20年までは横ばいだったが,21,22の両年,とりわけ22年に飛躍的に増えた。輸入は4千億ユーロ弱から6千億ユーロ超と5割以上増え,22年の貿易収支赤字は約4千億ユーロ(60兆円)と膨大化,20年から倍増だ。中国の最大の輸出相手は23年前半に米国からEUに転換した。

 アメリカのように関税引き上げを含めて対中輸入規制をしていないので,中国企業は迂回輸出をする必要もない。中国製品の輸入シェアは多くの製造品で数%から20%ほど上昇した。

 EU経済のエンジンであるドイツの対中輸出は停滞し,さらに深刻なことに,ドイツの最大の輸出市場であるEU市場で中国企業に食われている。ドイツの対EU輸出の主力品は機械・自動車(同部品)・化学品・医薬品といった旧型工業品だが,中国はデジタル・電子・光学系製品や電気系設備(太陽光・風力発電を含む)といった高需要部門で急激にシェアを上げている。ドイツ輸出モデルは揺らいでいる。

 EUのハイテク品の中国輸入依存度は非常に高い。EU統計局の最近の報告によれば,2022年EUのハイテク品輸入の第1位は中国で1830億ユーロ,2位米国910億ユーロの2倍である。中国からのハイテク品は,電子・テレコム関係がほぼ半分,次いでコンピュータ・事務機器が30%弱である。

 「中国製造2025」(2015年発表)で世界は仰天したのだが,中国は膨大な国家補助金をハイテク部門に集中し,希少鉱物から最終製品まで巧みに世界の中国依存を高めてきた。EUの貿易にその成果がはっきり読み取れる。

 輸入依存度が高まる中国にEUはデリスキング(リスク低減)を挑んでいる。広島サミットでG7とEUは中国に対する「デリスキング」を誓い合った。だが,中国への輸入依存度を飛躍的に高めているのだから,「リスク急上昇」といえなくもない。貿易の動きと政策の方向性が真反対だ。迂回貿易へのアメリカの対抗策も難しいが,EUのデリスキングは暗雲に包まれているようにみえる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3118.html)

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