世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3098
世界経済評論IMPACT No.3098

今後の蓄電池市場の展開と3つの気付き

福田佳之

((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)

2023.09.04

 これまで世界的に高い成長が続く蓄電池産業の課題と解決への取り組みについて,最近複数のレポートを執筆する機会があったが,ここで今後の蓄電池市場の展開について少し考えてみたい。

 まず短期的には,各国当局の政策支援もあって引き続き成長すると見ているが,サプライチェーンの脆弱性など蓄電池産業が抱える課題が顕在化することでブレーキとまではいかないものの波乱にとんだ展開になると予想する。中長期的には,これらの課題に対してリサイクル・リユースや次世代電池など解決の糸口が見つかることで同市場は拡大基調で推移していくと期待するが,そのペースは当局の資源循環等への規制の姿勢や次世代電池開発・投入の方向性や進捗等に大きく影響を受けるだろう。

蓄電池の技術的な課題の関心が変化

 次に内外の蓄電池産業の調査分析を進める中であらためて気づいた点を3点指摘したい。まず,蓄電池が抱える技術的な課題への関心の変化がある。これまで技術的な課題の関心は,エネルギー容量増大や長寿命化などが中心にあったが,ここにきて材料の希少性の克服にも広がっている。リユース・リサイクルの取り組みや正極材としてのリン酸鉄の採用やナトリウムイオン電池の開発等はまさに課題への関心の変化によるものと言ってよい。また課題解決への取り組みで中国勢の動きを無視することはできなくなっている。なお,全固体電池についてはトヨタ自動車など日本勢を中心に開発が進められている一方で,海外勢の中には技術的障壁の高さから半固体電池の開発を進める動きもあり,次世代における世界の自動車メーカーの勢力争いにどの程度まで影響を与えるか注意を払う必要がある。

リサイクル・リユースには官民双方からの流れ

 次に,リユース・リサイクルについて規制強化という官からの流れがある。中でも欧州において顕著であり,8月にはリサイクルや関連情報開示を義務付けるバッテリー規則が施行された。その一方で新たなビジネスモデルの開発という民からの流れが出てきている。リユース・リサイクルをサービスとして提供するルノーの「リファクトリー」構想が代表例である。この官民からの二つの流れがうまく合わさって世界的な蓄電池普及を促進させるのか,それともどちらかが蓄電池普及にブレーキをかけ,その普及経路は紆余曲折となってしまうのか注目されよう。

無視できない米中対立の影響

 最後に,中国蓄電池メーカーの存在感の大きさと米中対立の影響が挙げられる。CATL(寧徳時代新能源科技)など中国蓄電池メーカーの台頭には,中国当局による支援の他,世界最大のEV市場の存在,中国を軸とした盤石なサプライチェーンが関係する。ただし,こうした中国優位の状況を米国がどこまで許すのか気になるところだ。少なくとも米国市場においては中国蓄電池メーカーの存在感の増大を許さないのではないか。また,技術的課題の関心の変化は,もとを正せば米中対立がその背景にあることを忘れてはいけない。今後も米中関係の動きが蓄電池関連の取り組みに影響を及ぼすだろう。

 蓄電池が脱炭素実現において不可欠なことは言うまでもない。だが,蓄電池の普及の展開は,技術開発の方向性,各国の資源循環等の規制姿勢,そして米中対立の影響もあって予断を許さない。当然,蓄電池ビジネスにも大きく影響を与えよう。引き続き蓄電池の動向に注視していきたい。

 なお,「世界経済評論2023年9/10月号」の「劇論Society 5.0」で蓄電池の課題と取り組みについて共著で執筆させていただいた。また弊社ホームページで蓄電池関連レポートの特設コーナー「脱炭素化のカギを握る蓄電池産業の役割と今後の注目点」を設けている。ご関心のある方は目にとめていただければ幸いである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3098.html)

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