世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日産・ルノー,対等出資に最終契約,提携関係は新たな段階へ:世界で加速するEVシフトに反転攻勢急ぐ
(駿河台大学 名誉教授・ITI 客員研究員)
2023.08.07
日産自動車と仏自動車大手ルノーは本年7月26日,対等出資などこれまでの両社の資本関係の見直しについて,最終契約を締結したと発表した。契約によると,ルノーによる日産への出資比率を43.4%から引き下げ,日産によるルノーへの出資比率と同じ15%にする。また,ルノーが設立する電気自動車(EV)新会社「アンペア」に対する日産の出資額は最大6億ユーロ(約930億円)で合意した。
ルノーは本年内に,保有する日産株のうち,28.4%をフランスの信託会社に移し,議決権は行使しない。信託分はルノーが売却に応じる水準まで日産株が上昇することを前提に,日産に優先的に売却する。日産側も.一定程度を買い戻す考えを示している。
EV新会社にはルノーが過半を出資し,日産も最大6億ユーロを出資,取締役を派遣する。日産が懸念していた知的財産の取り扱いについては一定程度の制限を設ける。日仏連合(アライアンス)を組む三菱自動車も出資を検討している。因みに,日産は2016年,三菱自動車に出資,34%の株を保有したので,3社連合となった。
本年2月6日に両社が合意した後,3月中としてきた最終契約が4カ月近く長引いた。
一つは,ルノーが過半を出資して設立するEV新会社に,取締役を派遣したい日産と,日産にできるだけ多くの出資をさせたいルノーとの交渉が難航したことである。最終的に出資額は日産が想定する6億ユーロ程度に落ち着き,取締役派遣でも合意した。
もう一つは,EV新会社に提供する日産が持つEV関連特許を中心とする知的財産の取り扱い問題であった。新会社には米半導体大手メーカークアルコムなども出資を検討しており,日産が技術流出を恐れていた。最終的には,新会社の設立を急ぐルノー側が譲歩する形で,一定の制限を設けることで合意した。EVシフトや自動車のソフトウェア化で連携を強める。
日産が深刻な経営難に陥っていた1999年3月に始まった両社の提携関係は四半世紀を経て,ルノーが主導権を握る資本関係から対等な関係へと新たな段階に移行することになる。百年に一度と称される世界の自動車産業のEVシフトが急速に進む中,日仏アライアンスの喫緊の課題は,EVシフト化への対応である。
日産とルノーは新会社をいち早く軌道に乗せ,先行する米EV大手テスラや中国メーカーに対抗していくうえで,新たに競争力のあるEVを投入して反転攻勢を急ぐ必要がある。
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