世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
SDGsで日本が途上国のフィリピン,バングラデシュより劣る分野
(長崎県立大学 准教授)
2023.06.26
「ダボス会議」を主宰する世界経済フォーラムが6月21日,ジェンダー・ギャップ・レポート2023年版を発表した。日本は前年より9つ順位を下げて125位。調査対象は146国である。2006年に始まった調査だが,日本は世界の下位が指定席だ。原因は明らかである。日本では国会議員のクォーター制度など「異次元の女性活躍」といった政策に結びついていない。安倍政権では,東京五輪が当初予定された2020年に「指導的地位に占める女性の割合を30%程度」に上昇させる目標を掲げていた。その後の政権からは達成の熱量を感じない。
女性の社会進出実現の前に「異次元の少子化対策」が登場してきた。政策のシークエンス(順番)はこれでいいのだろうか。若い世代は女性活躍の実現より前に少子化対策がでてくる社会をどうとらえるだろうか。
イスラム圏でも女性の社会進出は進んでいる
東アジアでジェンダー・ギャップ・レポートの上位はフィリピン16位,シンガポール49位,ベトナム72位である。日本ではイスラム教徒は男性社会と思う人が多いかもしれないが,イスラム社会でも女性の社会進出が進みつつある。バングラデシュ59位,カザフスタン62位,アラブ首長国連邦71位,インドネシア87位などより日本は低い。日本より順位が低い国は,レバノン,サウジアラビア,パキスタン,アフガニスタンなどである。世界経済フォーラムはこうした国々とともに日本の男女格差が大きいと判断している。下位グループには人権問題がしばしば指摘される国が含まれている。
日本政府は外交で近年,「日本と価値観を共有する重要なパートナー」という表現をしばしば使う。逆に男女格差が少ない国々は,男女格差是正に熱心ではない日本に対して「価値観を共有するパートナー」と考えるのだろうか。
ジェンダー・ギャップ・レポートは企業の管理職比率など経済進出,進学率など教育,平均寿命など保健分野,国会議員比率など政治参加の4項目から構成される。日本は教育47位,保健分野59位,経済123位,政治138位である。日本が順位を下げるのは経済と政治である。特に政治ということだ。政治家が決断すれば,世界的な順位は変わる。
1947年の憲法で男女平等は規定されている
男女平等を規定した日本国憲法施行は1947年,男女雇用機会均等法施行は1986年である。それぞれ76年,37年経過している。男女雇用機会均等法後に入社した世代(均等法1期生)が大卒であれば,会社を退職する日が近づいている。政策目標,努力義務の周知期間としては十分である。長い期間で,わかったことは努力義務では日本社会は変わらないということである。国会議員・大臣,公務員の管理職比率など具体的な数値目標を法律に盛り込む時である。
国連が提唱した持続可能な開発目標(SDGs)。17つのゴールのうち5番目にジェンダーも入っている。国連の報告書(Sustainable Development Report 2022)では,G20のなかで,アルゼンチン,ドイツ,日本,メキシコはSDGsには高い支持の国だとされている。日本企業や日本の大学のホームページなどでもSDGsへの賛同が示される。
東急・阪急・阪神と関東・関西の代表的な私鉄は「SDGsトレイン」を運行している。ともに沿線住民の所得水準も高く,環境などの意識は高い。ではSDGsに熱心なこうした企業ではどの程度,女性が活躍しているのか。厚生労働省には女性活躍データーベースがある。最も公表度が高いのは東急である。12項目で数値を公開している。採用者に占める女性割合が28.6%,女性従業員が正社員では16.7%(本社一般だと26.3%),管理職に占める女性の割合は8.9%。勤続年数は本社一般で男性19.8年,女性13.2年。同社は育児や介護などで退職した社員を再雇用する制度を設けている。育児を理由とした対象者を末子が小学校入学から小学校4年生に引き上げている。
阪急,阪神,両社の親会社である阪急阪神ホールディングスは東急ほど公表していない。阪神,阪急が数値を公開したのは2項目。阪神の管理職に占める女性の割合は4,6%。阪急は採用に占める女性割合は8.5%,管理職比率は公表されていない。勤続年数は正社員で男性21.4年,女性11.6年である。東急よりも男女差が大きい。阪急阪神ホールディングスの数値公表は5項目。採用者に占める女性割合(総合職)は36.4%,総合職に占める女性比率は14.6%で管理職比率は4.9%である。育児休業取得率は総合職で男性44.1%,女性94.1%。東急は男性89.9%,女性100%である。ちなみに東武鉄道は8項目,西武鉄道,近畿日本鉄道がそれぞれ2項目数値を公開する。同じ業界でも公開される項目が違うのは政府が求める努力目標の現実である。大手私鉄のような大企業でも管理職3割の達成が容易ではないことがわかる。
国立社会保障・人口問題研究所による将来の人口推計では10人に1人が外国人である。しかしジェンダーについては東アジア最下位である。外国人の受け入れ確保にもダイバーシティの視点は重要である。まずは国会議員のクォーター制度や公務員の女性管理職比率3割達成を義務化して,さらに民間企業に対して具体的な目標を定めるべきだろう。
関連記事
小原篤次
-
[No.3461 2024.06.24 ]
-
[No.3450 2024.06.17 ]
-
[No.3441 2024.06.03 ]
最新のコラム
-
New! [No.3602 2024.10.28 ]
-
New! [No.3601 2024.10.28 ]
-
New! [No.3600 2024.10.28 ]
-
New! [No.3599 2024.10.28 ]
-
New! [No.3598 2024.10.28 ]