世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ロボ車元年:グーグル系,GO・日本交通と提携
(神戸大学大学院経済学研究科 研究員・国際貿易投資研究所 客員研究員)
2025.01.20
自動運転は,英字紙を見ると,Robotaxiとも表現される。つまり,ロボットタクシー,略称は「ロボ車」としておく。筆者は年初,5年ぶり7回目となるアメリカ経済学会年次総会に参加した。開催地サンフランシスコで,2時間余,36キロメートルほどをロボ車に有償の顧客として乗車した。合計7回の乗降では,夜間,日中,朝のラッシュ時間と異なる時間を選んだ(動画配信先は個人サイトhttps://www.moneyginza.com/参照)。
AI(人工知能)の発展で雇用喪失を予測したことで知られるマイケル・オズボーンは,「サンフランシスコは“複雑”な地域ではないので,東京やロンドンで導入されるのはまだ先の話。しかし自動運転技術は開発途中ですから,私のいまの予想もいい意味で裏切られているかもしれません」(『日経ビジネス』2023年4月3日付)と述べている。
道路事情を補足すれば,サンフランシスコは坂が多い。また,乗用車,バス,トラックのほか,ケーブルカー,トローリーバスが走る。交差点は十字路で信号がある。「両側に路上駐車」というエリアもある(ロボ車は,初心者ドライバーの道路進入を粘り強く待つこともあった)。坂の勾配は日本の都市部では経験できないもので,急斜面での信号待ち,坂道発進,続いて下り坂も経験した。人間だと不安になる難所だった。
オズボーンの言う“複雑”とは何か。歩道や車道の狭さ,信号がない側道,十字路(4差路)以上の「多差路」だろう。車のほか,人間,自転車,バイク,最近では電動キックボードも走っている。
東京で,グーグルの親会社のAlphabet傘下の自動運転車開発企業Waymoが2024年12月16日,「米国以外の国で初めてテストを行う」と発表した。日本語リリースや日経記事では情報が見当たらない車種である。英文によると,電気自動車自体はJaguar I-PACEが選ばれる。Waymoの自動運転技術を搭載していないものでも最新車種は本体価格だけで1500万円する高級車である。
日本交通の運転手が都心7区(港,新宿,渋谷,千代田,中央,品川,江東)の公道でWaymoの車両を運転して詳細な地図情報(3次元地図)を収集する。車両数は25台。プロジェクトは段階的に進行し,初期フェーズと呼び,自動運転技術を東京の公道に導入するためのテストと位置付けている。
Waymoは同社の走行データを分析した学術論文などで安全性を強調する。人が運転する場合の事故率より下回ったとしている。Waymoは現在,フェニックス,サンフランシスコ,ロサンゼルスで自動運転車を運行している。Waymoの社内データによると,2017年に公道に登場して以来,最初の3,300万マイル(約5,300キロ)で,Waymoのロボ車は,人間の運転手に比べ,エアバッグ展開事故で81%,負傷事故で78%,警察に報告した事故で62%それぞれ少ない(Observer, 2025)。同社サイトでも同様の数値で安全をアピールしている。
冒頭記載の筆者の実車経験は,合計7回。計2時間17分で,走行距離は36キロメートルだ。改造したI-PACEには,5個のLiDARセンサー,29個のカメラセンサー,6個のレーダーセンサーが搭載されている(日経ビジネス,2021)。
現地で働く日本人女性2人に聞いた限りでは,配車アプリのUberとWaymoを同等に使い分けている。大きな違いはWaymoの営業エリアがサンフランシスコに限定されていること。べイブリッジを越えてUCバークレー校や,南部にあるサンフランシスコ国際空港,さらに南にあるスタンフォード大学,グーグルやアップルの本社に行くこと営業区域外のため不可である。一番遠いアップルでも,サンフランシスコの中心にある広場“ユニオンスクエア”から1時間もあれば車で行ける距離だ。
彼女らの選択基準は,乗車までの待ち時間と料金である。料金が需給の状況で変わるためである。運転についての評価は,「乗るたびに運転がうまくなっている気がする」と肯定的だった。
夜間,南西に位置するユニクロが出店するショッピングセンターに向かった。肉眼だと車や街頭の照明で運転するがロボ車は対向車に存在を示すランプはあるが,前方道路を照明で明るくする必要がないのだ。仕事終わりで疲れて運転し,睡魔と戦う人間と比べればロボ車は優位だ。ユニオンスクエア周辺の乗車場所は,私が立っている場所に必ずしも来るわけではなく,駐車しやすい場所を選ぶ。もちろんそれは乗車しやすい場所でもある。往復で2回。ショッピングセンター以外の停車・乗車は4回,ユニオンスクエアから北側に位置する港湾地区で,いずれの停車場もユニオンスクエア周辺よりは路上駐車,側道,対向車線の自動車量が少なく円滑だった。目視で適切な場所をみつけて停止することもできるが,操作なしで停車したこともある。あと1か所は坂道が多い場所での下車と乗車である。
サンフランシスコの日の出は午前7時25分頃。太陽が昇り,撮影した動画も反射してうまく撮影できないほどだった。人間ならサングラスか,日よけを調整するだろう。今回の運転では,目視では極めて運転しにくい状態だった。特筆すべきは,私から見えないサイドのバスの乗降客を把握するセンサーの実力だ。
中国ではネット検索の百度系のapolloがWaymoより遅れて始まり,国内で営業する都市や営業範囲を広げている。他方,GMは2024年12月10日,自動運転タクシー事業の撤退を表明した。運営するGMクルーズが2023年,人身事故を起こし,事業再開のめどが立たない状況が続いていた。ホンダが出資,日本での実証実験を予定していたほか,ソフトバンク・ビジョン・ファンドが一時,出資した。
東京では大雨,積雪もある。事故の確率が低いとしても,車の事故に対する世論も違うだろう。Waymoの動向から目が離せない。
[参考文献]
- 中田敦「グーグル系ロボタクシー試練の冬 衆人環視で弱点を克服できるか」『日経ビジネス』2021年12月23日付,88ページ.
- 「マイケル・オズボーン氏/驚異的なAIの進化を スキル再考の好機に」『日経ビジネス』2023年4月3日付,38-40ページ.
- Aaron Mok,”Waymo Co-CEO Is Optimistic About Self-Driving Regulation Under Trump and Musk”, Observer, 2025年1月10日.
- The Waymo, Nihon Kotsu, and GO Teams,”Partnering with Nihon Kotsu and GO on our first international road trip”, 2024年12月16日付(2025年1月1日アクセス).
関連記事
小原篤次
-
New! [No.3704 2025.01.27 ]
-
[No.3461 2024.06.24 ]
-
[No.3450 2024.06.17 ]
最新のコラム
-
New! [No.3706 2025.01.27 ]
-
New! [No.3705 2025.01.27 ]
-
New! [No.3704 2025.01.27 ]
-
New! [No.3703 2025.01.27 ]
-
New! [No.3702 2025.01.27 ]