世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国は新エネ車シェア50%,ノルウェーは90%に迫る
(神戸大学大学院経済学研究科 研究員・国際貿易投資研究所 客員研究員)
2025.01.27
トランプ政権の誕生をはじめ,足元,自動車政策は不確実要素を抱えている。周知のように2009年から中国が世界最大の自動車市場である。中国のほか,2035から2040年あたりを目標にする国もあり,長期的な視点に立てば,2025年は脱ガソリン車・脱ディーゼル車の折り返し地点である。世界最大市場の中国ではEVなど電動車販売が50%に迫ると予想されている。ノルウェーは90%である。両者は電動車への大きな潮流のシンボルとなるだろう。
電動車は「環境」だけでは説明がつかない。通信,半導体,ソフトウエア開発,人工知能(AI)など将来の電子産業を左右する競争戦略になっている。そこで本稿では,中国やEVを切り口に自動車産業を考察する。
中国自動車販売,米国の2倍,日本の8倍の市場規模
中国は,電池製造から自動車に参入した民営企業のBYDが世界各地に輸出をするまでに成長した。米国テスラは2019年から工場を持つ。中国のEV市場は補助金や税の減免,外資系企業の選別など強力な政策支援と,100社以上のメーカーが参入する競争のもと,電池開発,量産化によってコストを下げた。自動運転支援機能などの高度化も実現し,顧客に提供している。ドイツ,日本メーカーが協力を仰ぐことも珍しくない。
2024年の中国新車販売台数(輸出含む)は,前年比4.5%増の3,143万6,000台となった。他方,米国は2.3%増の1,597万6,559台である。中国は生産・販売で,2009年以来16年連続世界一である。その市場規模は米国の2倍,日本の8倍である。
注目されるカリフォルニア州の環境規制
環境対策は,政権交代,産業界の意見,世論などの影響を受ける。そのなかで一貫性があり,他国や自動車メーカーに影響力があるのがカリフォルニア州の環境規制である。アメリカで「大気汚染」が認識され,ロサンゼルスで「スモッグ」が認識されたのは1943年頃である。現在は,EV,プラグインハイブリッド(PHEV),燃料電池車(FCV)をゼロエミッション車(ZEV)として,2023年までの新車販売でZEV100%を掲げている。ノルウェーは消費税25%を免除することで,内燃機関からEV・PHEVへのシフトを誘導し,新車販売の90%まで増加した。2025年までの100%達成を目標にしてきた。イギリスは,内燃機関の英国内での新規販売を禁じる時期を従来計画から5年早め,2035年に前倒しする方針である。フランスは2040年を目標にしている。欧米は中国からのEV輸出に対して高い関税を課しており,中国車が政治問題化している。2015年に発表された「中国製造2025」の最終目標は建国100年を迎える2049年である。新エネルギー車も10の重点分野の一つである。「中国製造2025」は,2018年に顕在化した米中対立のきっかけとなった。
経済政策立案を担う国家発展改革委員会などは,「新エネルギー車への財政補助政策に関する通知」による補助金政策を2022年まで延長(当初は2020年で終了予定)。2024年は,自動車や家電の買い替えを促進する補助金制度を導入,2025年も更新することも明らかにしている。
中国はもはや外資系がリードする市場ではない
2024年はEVやPHEVなど新エネ車の販売台数が1,286万6,000台となり,1,000万台の大台を超えた。内訳はEVが15.5%増の771万9,000台,PHEVが83.3%増の514万1,000台だった。新車全体に占める新エネ車の比率は40.9%である。他方,米国では,2024年の新車販売台数に占めるEV比率は8.1%と前年(7.8%)から拡大した。日本は,EV・PHEV・FCVで合計7万7886台の3.3%だ(日本自動車販売協会連合会の2024年)。中国汽車工業協会は2025年の新エネルギー車は前年比24.4%増の1,600万台となり,新車販売全体に占める比率は48.6%になると予測している。
乗用車市場での中国ブランドの割合は65.2%と,前年比で9.2ポイントもアップした。中国進出が1984年と早いフォルクスワーゲン(VW)や,米国GMが長らく上位を占め,2010~2011年は,日産,韓国の現代自動車が追いかけていた。現在は,外資系の縮小・撤退に追い込まれており,様変わりである。
テスラや中国メーカーから学ぶ時代
世界のEVメーカーは,テスラとBYDが販売台数で世界一を競う。2024年はテスラが178万9,226台,BYDが176万4,992台。創立はともに2003年,創業者が異業種から参入してきた。テスラはEVの生産改革で先行する。上海工場で1台40秒の速度で生産する。従来は60秒前後だった。巨大設備にアルミを流し込んで車体を作る。この生産方式(ギガキャスト)で一般的な自動車メーカーなら100を超える部品を,数個に集約した。BYDは電池の製造から垂直都合で内製化比率の高さでコストを下げてきた。さらに,BYDのほか,ボルボを買収した吉利汽車の高級ブランド「Zeekr(ジーカー)」,スマートフォン・家電大手の小米のEVで,ギガキャストの導入が相次いでいる。
トヨタは,ギガキャストを研究している。日産やトヨタは,中国の自動運転スタートアップ企業モメンタから,先進運転支援システム(ADAS)を導入する予定である。
中国メーカーは新興国を含めて,補助金,税金の減免が開始されると,EV・PHEVを素早く輸出する。政策と市場規模によっては現地生産も厭わない。日系シェアが9割と高かった東南アジアでも中国メーカーが実績をあげている。中国の自動車メーカーは,EV・PHEVにおいてコストを下げて,先進国に輸出できる安全性,環境面での規制もクリアした。既存の自動車業界の壁を壊したとも言えそうだ。当面は,欧米からの高い関税に苦戦する。しかし,自動車と電子産業との融合も加速化されており,中国市場の動向から目が離せない。
- 筆 者 :小原篤次
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :新興国
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
- 分 野 :科学技術
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