世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
EU・アメリカ地域での「学び直し」事例と追跡調査
(SPCコンサルティング株式会社Labo 所長)
2023.05.08
日本国内での「学び直し」は未だ不十分である。専門分野知識の高度領域習得や最新化,国家資格取得,社会活動拡大等目的は様々だが,社会人が大学法人に戻ってきている状況はまだ増加に転じていない(*)。そこでEU・アメリカ地域での「学び直し」状況とその後追跡調査を踏まえ,彼ら地域でのキャリア運用とその後効果を紹介,「国内勤務者の自己成長を促せるキャリア開発と人事運用」がイメージできるように詳述する。
[注]
- *2023年度首都圏大学院入学状況サンプル調査から
1.EU・アメリカ地域でのJOB型「学び直し」
1−1)米国大学法人の専門分野別教育
プロフェッショナルスクールという教育機関が併設,専門職やマネジメントを対象とし各専門分野の特定領域で職務遂行を行うことを目的とした深堀あるカリキュラム提供を行っている。
1−2)受講者属性(短期プログラム通学型)
EU・アメリカ地域からの受講者が9割を占め,アジア地域からは1割未満と少ない。主な受講者は官民双方から技術や経営等の専門職,100人程度の大きなチームを仕切るマネジメントリーダー職,更に提供カリキュラムによっては現役学術職が参加している。
1−3)費 用
EU・アメリカ地域からの受講者の8割は勤務先人事制度で受講費用請求可能とのこと。ただし費用には上限があり,一部自己負担も含む。ただし旅費宿泊費用は含まず。
1−4)受講後の仕事調査
受講者の5~7年後追跡調査をランダムに100 人のサンプルで実施したところ,下記の結果となった。
1−4−1)地域別
①EU地域からの受講者9割が勤務先,職業のいずれも変わっておらず,1割が更なるプロフェッショナル教育を経て自営業に転じている。彼らの一つ目の特徴として専門職の場合は同じ勤務先に20年は在職,その前後に1度転職がある程度で転職回数は多くない。また二つ目の特徴として,技術開発職の場合は学術職にあるサバーティカル=一時休職リフレッシュ制度を導入している企業があり,その制度を利用した2年間程度の「長期学び直し」事例も複数人見られる。
②アメリカ地域からの受講者8割が勤務先を変え,かつ職位では結果的に上昇を果たしている。また1割が「学び直し」の後,業界を鞍替えし自営業に転じている。残り1割は,勤務先,職業とも変わらず。
1−4−2)業界別
①②を業界別で分析すると,IT 業界勤務者は「学び直し」後10割が転職というFACTは特徴的といえる。
1−4−3)ジェンダー別
「学び直し」の後,自営業に転じている事例はいずれも女性となっている。
2.考察ポイント
以上,EU・アメリカ地域での「学び直し」事例から,日本人勤務者が考察すべき点は以下の通り。
2−1)「学び直し」をしても給料が上がらないという点
EU地域からの受講者事例から,彼らも長期就業をしているが「学び直し」は習慣化しており,その動機を聞き取りすると,自分の職を磨く,自己研鑽の意識がとても高い。年功序列はない人事制度だが,自己研鑽派の5~7年後の職位は上昇傾向に転じている。また30代半ばから40代中堅では次のキャリア計画が明確にあり,その目的に沿った受講と説明した人材も居り,実際に彼らは専門分野で長期に培った「職」をグレードアップさせている。
2−2)「学び直し」を転職に反映させるという点
受講者への聞き取りから,多くが勤務先の次のミッションや自己キャリア目的を持ち参加している。特にアメリカ地域からの受講者はそれら動機づけが強く,その後の追跡調査では目標通りのキャリア展開に繋げている事例がほとんどを占めている。
3.日本人勤務者の「学び直し」ビジョン
日本社会では,仕事スキルを磨く従来の企業研修から,更に専門知識の習得を目的とした「学び直し」を啓蒙する最中にある。EU・アメリカ地域双方の受講事例から,指針は以下の通り。
3−1)職を磨く,極める
給料が上がらなくても,職を磨き,職位を向上させることは共通の動機づけとなり得る。
そのためにはまず自分の職とは何かを定義づけする必要がある。3−2)中堅では,次の展開ありき
更には「中堅」という立ち位置になったら,次のキャリアビジョンを描き,職を体系化し向上させる意識とアクションが明確な動機づけにつながる。
3−3)まとめ
これら二つの動機づけが日本社会でも明確になると,「学び直し」が本格的に活発化し,社会全体で職の教育効果が高められる。
4.日本社会でのアクションアイテム
戦後,日本社会では特徴ある日本型人事制度が営まれている。近年ハイスペック事業ではJOB型の導入辞令もあるが,それ以外では勤務年数と共に業務の極め方,特に中堅以降の業務では職の体系化や質の高め方をどうしていったらよいか? 今後各現場で仕事分析と職の考察があると社会の進化発展と共に,効果高い人事と業務改善が図れると考えられる。
上記結果はSPCCTOKYO LAB での海外独自調査企画,サンプル追跡調査に基づく。
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