世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2906
世界経済評論IMPACT No.2906

3期目の習近平氏の「科学技術イノベーション」:対話式の人工知能「ChatGPT」への対応

朽木昭文

(ITI 客員研究員・放送大学 客員教授)

2023.04.03

 習近平氏が科学技術イノベーションに向けて戦略的新興産業の育成を目指す。これは3期目でも変わらない。イノベーションは,自由貿易試験区などの開発区に「産業クラスター」の構築を戦略とする。その際に外国籍人材と外資の役割も重視する。科学技術省は,対話式の人工知能「ChatGPT」の潜在力を評価している。

1.2023年の政府活動報告の「科学技術イノベーション」(3月14日発新華社)

 政府活動報告によれば,「イノベーション駆動型発展戦略」を踏み込んで実施し,科学技術イノベーションの先導的役割を強化した(注1)。「国際科学技術イノベーションセンター」と「地域科学技術イノベーションセンター」の整備を推進し,統合型国家科学センターを配置した。

 企業の「基礎研究」,設備取得に政策的支援を与え,さまざまなイノベーション促進のための優遇税制では,2022年の実施規模が1兆元を超えた。また,製造業企業と研究開発型中小企業の研究開発費加算控除比率をそれぞれ50%,75%から100%に引き上げ,さらにその他の加算控除比率75%の企業を対象に一時的に100%にするなど控除比率を不断に引き上げた。

2.習近平氏の外資を重視した科学技術協同イノベーション

 習氏は,「科学技術協同イノベーション」を深め,高いレベルの科学技術自立自強の推進を加速することを目指す(3月14日発新華社)(注2)。グローバルな影響力を持つ「産業科学技術イノベーションセンター」づくりに力を入れる。製造強省づくりを急ぎ,「戦略的新興産業」を育成し,同時にデジタル経済を発展させる(注3)。

 習氏は,半導体チップ国産化を望む(注4)。劉鶴・副首相は,2023年3月2日に北京で集積回路(IC)企業の発展状況を視察した。国内の人材に対して優遇政策を取り,「外国籍専門家」に対し,真に内国民待遇を付与し,企業の人材誘致・養成加速を支援する(注5)。

 習氏は,中央経済工作会議での演説において「外資」をより力強く導入,利用すると述べた。外資参入ネガティブリストの項目を合理的に減らし,現代サービス業分野の開放に一段と力を入れる。その際に,自由貿易試験区などの経済開発区の先行試験の役割を発揮させる(注6)。

3.科学技術省と国務院:基礎研究と産業クラスター

 科学技術省は,「科学技術イノベーション」の全チェーン管理を最適化し,科学技術成果の実用化を促進し,科学技術と経済・社会発展を結合促進する(2023年3月7日発中国通信)(注7)。王志剛科学技術相によれば,基礎研究を推進し,企業を科学技術イノベーションの主体とする(注8)。それにより,企業は,基礎研究,応用基礎研究から技術革新,成果の実用化まで主体としての役割を果たすことができる。

 さらに,「AI」の研究に携わる大学,研究機関,企業がより良く進歩し,世界のAI発展のために中国なりの貢献をするよう希望する。特に,対話式のChatGPTについての将来性を認識している点が注目される。

 党中央・国務院による『品質強国建設要綱』によれば,一群の産業クラスター品質基準イノベーション協力プラットフォームをつくり,イノベーション技術の研究開発を強化する(注9)。「自由貿易試験区」などの経済開発区に依拠して,「産業クラスター」を育てる。

 中国共産党中央委員会と国務院は「内需拡大戦略計画要綱(2022~35年)」を発表した(注10)。新しいタイプのインフラを系統的に配置する。

 第1に,高速・ユビキタス,宇宙・地上一体,統合・相互接続,安全・高効率の「情報インフラ」である。

 第2に,5G,AI,ビッグデータなどの技術と交通物流,エネルギー,エコロジー・環境保護,水利,緊急,公共サービスとの「融合インフラ」である。

 第3に,国家産業イノベーションセンター,国家製造業イノベーションセンターなどの「産業イノベーションインフラ」である。

4.習氏の改革開放の実施に依存

 科学技術省は,科学技術の自立自強の実現に向けた政策を推進する。そして,対話式AIの潜在力を評価している。3期目の習近平氏も科学技術イノベーションを重視する姿勢に変わりはない。

 しかしながら,米中覇権争いの下でイノベーションが進むかは,習氏が鄧小平氏の改革開放へ戻ることができるかどうかに依存する。

[注]
  • (1)北京2023年3月14日発新華社=中国通信。
  • (2)北京3月8日発新華社=中国通信。3月8日第14期全国人民代表大会第1回会議解放軍・武装警察部隊代表団の全体会議。
  • (3)北京3月5日発新華社=中国通信。注2の審議参加
  • (4)北京3月2日発新華社=中国通信。劉鶴・副首相は2日北京で集積回路企業。
  • (5)北京3月5日発新華社=中国通信。注2の審議。
  • (6)「求是」,北京2月15日発新華社=中国通信。
  • (7)3月7日新華社電,注2の第2回全体会議。
  • (8)東京3月7日発中国通信。北京3月5日発新華社電記事。
  • (9)東京2月17日発中国通信。
  • (10)東京12月14日発中国通信。中国中央テレビ・ニュースサイト「央視網」。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2906.html)

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