世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
移住産業としての技能実習制度・特定技能制度
(南山大学国際教養学部 教授)
2023.03.13
前回,migration industryのことを書いた(No.2758)。移住産業,と訳されている。国境を超える移動に関するあらゆる資源やインフラを提供する主体の総称で,合法・非合法,フォーマル・インフォーマルを問わず,いわば潤滑油の働きをする。1970年代から議論され,日本でも2020年に国立社会保障・人口問題研究所の是川夕氏がアジアにおける労働移動のご研究の中で言及されていた(注1)。移住産業の担い手は,今では報酬を目的とする主体だけでなく,政府もNGOも国際機関も概念に含まれるようになり,人の移住に伴う制限や条件が複雑になれば産業のすそ野が広がっていくことは容易に想像できる。
就労を目指す外国人を受け入れる日本側の移住産業として「監理団体」を考えてみる。在留外国人の中で,永住者を除くとシェアが最も高い技能実習生(2022年6月末現在,構成比11.1%)を迎える日本側の組織は,海外の現地法人や取引先の職員を直接受け入れることのできる大手企業は別として,外国人技能実習機構(OTIT)が認めた監理団体だ。OTITは出入国在留管理庁と厚生労働省が所管しており,ここが認めた監理団体を通じないと企業は技能実習生を受け入れることができない。監理団体は,技能実習生の入国時に講習を行い,実際に彼らを受入れる企業のサポート,指導や監査に責任を負う。具体的には中小企業団体,商工会議所,農業・漁業協同組合などだ。さらに,監理団体には,技能実習の在留期間によって一般監理団体と特定監理団体の二つがある。特定監理団体は,技能実習1号(1年目)と2号(2~3年目)までの技能実習生を受け入れることができ,一般監理団体は技能実習3号(4~5年目)までを受け入れることができる。一般監理団体になったほうが長く働いてもらえる実習生を受け入れることができて望ましいが,許可条件(実習の実施状況や実績,法令違反の有無など)もそれだけ厳しい。OTITのwebページによれば,一般監理団体は1,911件,特定監理団体は1,736件,合計3,647件(2023年2月現在)である。
監理団体の収入源は,実習生を実際に受け入れている企業から徴収する監理費である。監理費には,初期費用(講習費,募集費用,来日時渡航費など),定期・不定期費用(定期費用には,監査・訪問指導費用などが含まれ,不定期費用には,実習生の帰国のための費用等がある),職業紹介費,送出機関に支払う費用など,実に20を超える費目がある(重複している費目もある印象だ)。その中で,監理団体が定期費用として徴収している一人当たりの月額平均は,OTITのアンケート調査によれば,技能実習1・2・3号平均で28,000円ほどになる。昨年6月末の技能実習生は327,689人なので,単純計算で月額約91億7,500万円,年間にするとおよそ1,101億円。本当に机上の計算だが,監理団体が3,647件あるので,定期費用だけで監理団体1件当たり平均して年間3,000万円ほどを受け取ることになる。監理団体がこの徴収額を使う内訳は,監査・訪問指導費(47%)や送出機関に払う費用(23.2%),その他は募集にかかる費用や健康診断費用等である。技能実習生を受け入れている企業が監理団体に支払う費用はこれだけではなく(初期費用の平均金額は一人当たり34万円),賃金以外の総費用はどのくらいになるだろう。
こうした監理団体の他にもまだ移住産業がある。「登録支援機関」である。2019年に創設された「特定技能(1号・2号)」の在留資格者を受け入れる企業は,支援計画の作成,日本での生活支援に取り組む必要があるが,支援計画の実施をこの登録支援機関に委託することができる。出入国在留管理庁の登録を受けた団体や個人がなれる仕組みになっており,営利機関の参入が認められているため,有料職業紹介会社も登録できる(上述の監理団体は非営利団体に限られる)。自社で支援計画を作成して支援することができるのは大手企業に限られるだろうから,多くはこの登録支援機関に委託料を払うことになるだろうか。出入国在留管理庁によれば,登録支援機関は監理団体をはるかに超える7,946件の登録がある(2023年3月3日現在)。特定技能1号は上限5年まで在留可能で,現在137,588人,在留期間に制限はなく家族帯同も認められる特定技能2号は9名いる(どちらも1月末現在)。委託料金については残念ながら勉強不足でまだよく分からない(注2)。
こうした手数料や委託料が発生すれば,賃金を低く抑えるインセンティブが働くだろうと,報道されてきた様々な事件に今更ながら深く頷くし,団体や企業において制度が適切に運営されているか否か視察・指導を行うだけのマンパワーがOTITなどの組織にあるのかどうか疑問がわくし,そもそも異なる制度,異なる介在者のもとで複雑な手続きが行われるのなら,技能実習と特定技能を一本化して透明性のあるシステムにできるのでは,という疑問もわく。送出し国側の移住産業の考察も含めて,次への課題としたい。
[注]
- (1)是川夕(2020)誰が日本を目指すのか?:「アジア諸国における労働力送出し圧力に関する総合的調査(第一次)」に基づく分析,人口問題研究 / 国立社会保障・人口問題研究所 編,76(3), 340-374.
- (2)人材採用サービス会社のwebページなどを見ていると,一人当たり月額15,000円~25,000円という情報や,まだ相場が形成されていないので不明という情報,あるいは紹介料だけで一人当たり数十万円,ということもあるようだ。
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