世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
資本主義は厄介なのか
(北星学園大学 名誉教授)
2023.02.13
資本主義は途方もない失敗を犯すものと思わざるをえない。何が問題か。自由を尊重する民間主導経済が行き詰まったとき,直ちに政府が救済措置を取れないことである。いや実際には無能な政府でなければ直ちに対策を取れるはずなのに,民間企業に任せきりで自分が何をすべきかを忘れていることに問題の本質がある。大戦前のあの大不況も20年ほど前のリーマンショックも,政府が直接資金を大量に(必要程度に)国民経済に供給すればあのような大量失業などの悲惨な事態にはならなかったはずであった。このような事は既に経済学の常識だ。ところが政府がこれを怠った。いや現在の日本経済の実情と同じように怠ってきたし,今も怠っている。国債の大量発行といういわば政府の逃げの一手が,国民経済を危機に陥れている。国債は政府にとっては一時逃れかもしれないが,国民に取っては生涯もしくはそれを超えた長期の債務になりかねない。加えて国債の大量発行は国民に消化されていない。いつの時代においてもこのような事態になった。まず中央銀行は大量に発行された国債を債権として持つが,今の日銀が抱える債権の実態は驚くべき程大きい。GDPの2.5倍,国内発行株価総額(ETF)の半分相当の債権を持ち,完全に国民経済を支配する形になっている。金利をこれまでのようにマイナスにすれば国民経済の投資の飛躍的な復活によって経済は再生するはずだ。ところがそうはならない。景気の極端な低迷下において金利政策で景気を回復し,経済を正常軌道に乗せた例はない。そこで若干金利を上げてみるが既に時遅し,それ以上に中央銀行の債務である当座預金が増大し,このまま進めば中央銀行の倒産の可能性もある。つまり,中央銀行は何もできない。そして頼りの政府は,官僚に任せっきりだから何をどうすべきか決断できない。こうした不幸な資本主義を経験してきた国は数知れない。そしてラインハート,ロゴス等の研究(記録)によれば,外部債務か内部債務かを問わずデフォルト化する。これが800年の世界の経済史,金融史だという。多分史実に忠実であれば国家は破綻するのである。世界はコロナ,ウクライナ情勢によって混乱し,ほぼどの国も空前の債務超過である。中で一番比率(対GDP比)が高く,最も危ないのが日本だと考えられている。この状態をどうすれば脱却できるか。それが政府の仕事である。政府が積極的に貨幣を国民に供給して投資,消費の経済支出が財政支出の2パーセント減水準まで増加する経済政策を行う。これが物価が2パーセントまで上昇するということの意味である。その間勿論増税は行わない。もう一つ筆者なりの注文を付ければ,敵基地直接攻撃能力などの時代錯誤的防衛政策ではなく,サイバー攻撃に対応するDXを完全に整備することに全力を傾けて,弱体化し,意欲を失ったように見える企業群には大規模な財政支出,他方でじりじりする物価の上昇のため,消費を抑制する道しかない一般の国民の消費支出を増加するため少子高齢化時代に安心して暮らしが出来るようにする政策を実行することである。これに関しては高々5%程度の賃上げに満足しそうな産業界・野党の諸賢も政府の責任だとして逃げ出して参加しなければ日本の未来は開けない。
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