世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2818
世界経済評論IMPACT No.2818

上海臨海新区の「IC産業クラスター」の形成の現状

朽木昭文

(ITI 客員研究員・放送大学 客員教授)

2023.01.16

 2019年に設立された上海自由貿易試験区の上海臨港新区における「IC産業クラスター」構築が着々と進められている。このことを①デジタル経済の発展,②企業の地域統括本部の設置促進と仲裁業務のワンストップサービス,③地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の活用,④中国国際輸入博覧会の点から説明する。

ICクラスターの形成目標

 第14次5カ年計画(2021~25年末)では,上海臨港新片区の一定規模以上の工業企業の生産総額は5000億元(約7兆2,500億円,1元=約15円)に達し,年平均伸び率は25%と計画されている(注1)。ここに,「インテリジェント新エネルギー自動車,ハイエンド装置,集積回路(IC)」の「三大産業クラスター」が形成される(注2)。2025年までに,上海臨港新エリアにICの産業革新基地をつくり,ICの産業規模1,000億元を目指し,2030年にはハイレベルな産業エコシステムを構築する(注3)。

 国務院は,「税金,投融資,研究開発,輸出入,人材育成,知的財産,市場応用,国際協力」の8つの方面からIC産業を支援する(注4)。政策ではICメーカーだけでなく,IC設計,パッケージング,テスティングなどを行う企業に対しても所得税の減免措置を講じており,「IC産業クラスター」の育成を後押しする。

①デジタル経済の発展

 2021年時点で中国のデジタル経済の規模は45.5兆元に達し,国内総生産(GDP)の39.8%を占め,デジタル経済の規模は連続して世界第2位になった(注5)。

 2022年6月時点で,中国のインターネットユーザー数は10億5100万に達し,インターネット普及率は74.4%に上昇した。累計185万4000の5G基地局が完成・稼働し,世界最大規模の5Gネットワークが完成,5G携帯電話のユーザー数は4億5500万に達した。

 八つの方面から次の段階の取り組みを手配し,経済の発展に対するデジタルの「産業クラスター」の役割を発揮させる(注6)。

 2012年から2021年にかけて,中国の電子情報製造業の売上は7兆元から14.1兆元の2倍に増え,工業全体の売上に占める割合が9年連続でトップとなった。ソフトウエア・情報技術サービス業の本業売上の年間平均成長率は16%である。工業・情報化省の最新のデータによると,第18回党大会以降,中国の次世代情報技術産業の次の段階は,産業の基礎的能力の向上,新技術の重点業界分野における融合革新発展の加速,リーディングカンパニーのリーダーシップ発揮などと共に,「産業クラスター」の構築である(注7)。

②企業の地域統括本部設置の促進と仲裁業務のワンストップサービス

 中国・上海市政府は,多国籍企業の「地域統括本部」などの拠点設立を促進するために,地域統括本部,本部型機構,事業部本部の定義や認定基準,優遇政策などの規定を定めた(注8)。企業への優遇政策については,第11条で,貿易における利便性向上,総合保税区内で数値制御(NC)工作機械,通信設備,精密電子などの製品の修理業務を行うことが可能となった。

 また,上海市は,「仲裁業務」の対外開放の範囲をこれまでの上海臨港新エリアから市全域に拡大し,既存の地域規制を解除し,海外の有名仲裁・係争解決機関を誘致する力を高める(注9)。更に,上海・江蘇・浙江・安徽4地区の市場監督部局は,市場参入分野で,登録基準,サービス規範,情報共有,刷新の足並みの四つの「統一」を達成する「長江デルタ地域市場参入システム一体化協力取り決め」に調印した。4地区の市場監督部局は,より多くの事項を一カ所で受理し,他所に回して認可手続きをワンストップサービスで進めることができる(注10)。

③RCEPの活用

 2019年から3年間で,中国への外資直接投資利用実績は2019年の1381.34億ドルから,2020年の1443.69億ドル,2021年の1734.80億ドルに増加した(注11)。

 更に,上海市商務委員会は2022年2月18日に,RCEPによる措置を発表した(注12)。上海市の対外開放,協力,競争における優位性の構築を6項目に分けて推進する。第3項目として,双方向の投資協力を強化する。企業誘致では,集積回路,人工知能,バイオ医薬を軸に,日本,シンガポール,韓国などの上海に立地する投資促進機関との連携を強化する。

④上海・中国国際輸入博覧会

 上海での2022年の第5回中国国際輸入博覧会は,年間総額735.2億ドルの商品・サービス購入の仮契約が結ばれ,前回を3.9%上回った。同博覧局の孫成海副局長によると,合計145の国,地域,国際機関が参加し,127の国と地域から企業2800社以上が出展し,新製品,新技術,新サービスの展示が438点に上った。フォーチュン誌の大企業500社に入っている284社が参加した(注13)。

最後に

 ロシアのウクライナ侵攻,中国のゼロコロナ政策,米中経済覇権争いなどの混乱する環境の中で,上海は休むことなく「IC産業クラスター」の構築を進めていることを見逃してはならない。日本企業の休むことない「適切な」対応が望まれる。

[注]
  • (1)上海8月20日発新華社。
  • (2)呉秀媛,ジェトロ・ビジネス短信2020年09月01日。
  • (3)「界面新聞」2022年8月21日。
  • (4)2022年8月4日。
  • (5)北京2022年11月7日発新華社。
  • (6)北京2022年10月28日発新華社。
  • (7)東京2022年10月21日発中国通信。
  • (8)宋青青,ジェトロ・ビジネス短信2022年11月14日。
  • (9)上海2022年11月10日発新華社。
  • (10)上海2022年9月9日発新華社。
  • (11)北京2022年9月24日発中国新聞社。
  • (12)宋青青,ジェトロ・ビジネス短信,2022年02月25日。
  • (13)上海2022年11月10日発新華社。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2818.html)

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