世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2787
世界経済評論IMPACT No.2787

インドのG20議長国への意気込みと期待

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2022.12.19

 コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻等で世界経済が低迷し,政治的な緊張が高まる中で,この11月に東南アジアでASEAN,G20そしてAPECの首脳会議が相次いで開催された。インドネシアのバリ島で開催された第17回G20首脳会議では,議論が紛糾したものの,戦争終結や核兵器使用の反対を含む多くの課題への国際協調をうたった首脳宣言をまとめ上げた。これには,議長国インドネシアの采配に加えて次期議長国のインドが貢献したと伝えられている。そこで,インドのG20開催への意気込みと期待に触れて見たい。

“Today’s era must not be of war”

 G20は14年前に始まり,G7の先進7カ国,BRICS等の新興11カ国,EUとロシアが参加し,世界のGDPの80%,国際貿易の75%,世界人口の3分の2を占める国際協議の枠組みである。協議は,当初の経済面に加え最近ではコロナ禍や安全保障等政治的な課題の多様なテーマが対象となっている。バリ会議では,ロシアのウクライナ侵攻の戦争被害だけでなく食糧やエネルギー価格の高騰等世界経済への影響が大きな争点となり,首脳宣言のとりまとめが紛糾し宣言なしで終わる懸念があった。

 そんな状況の中で,首脳宣言をまとめ発信できたのは議長国インドネシアの采配に加え次期議長国インドの粘り強い橋渡し努力があったと伝えられる。ロシアのウクライナ侵攻に関しては国名の明記を避け,評価については両論を併記し,また宣言には見出しの「今は戦争の時代であってはならない」との主張が盛り込まれた。この一文は,6月に開催されたSCO(上海協力機構)の首脳会議でインドのモディ首相がロシアのプーチン大統領に戦争終結を訴えた文言である。インドはロシアの主張に同調することもあるが,ウクライナ侵攻に関しては対話と外交で平和的に終結すべきと主張してきた。

 ロシアはこの2月に開始したウクライナ侵攻をいまだ続けており,その中で核兵器使用の威嚇を行っている。これは欧米を始め国際社会の反発を招き,首脳宣言には反対の趣旨が入れられた。ロシアのウクライナ侵攻に対する国連安保理の非難決議を留保したインドと中国も,首脳宣言には国名の表記を避けた記述に同調した。G20首脳会議のこれらの宣言の趣旨は,続いてタイのバンコクで開催されたAPEC首脳会議の宣言にも引き継がれた。インドのジャイシャンカール外相は,インドが“voice of the world”になってウクライナ戦争のような世界の分断に橋渡し役をすることができると述べている。

影響力や発言力を高められるか

 インドのG20議長国の任期は,12月1日から1年間である。会議は来年9月9~10日に首都ニューデリーで開催される首脳会議だけでなく,財務大臣・中央銀行総裁会合,外務,貿易・経済,エネルギー・環境等の大臣会合や関連イベントがインド各地で200以上開催される。世界主要国や国際機関から要人が集まり成果が世界に発信されため,インドの存在感が増し国際的な影響力や発言力を高められる大きな機会にもなろう。政府は世界情勢が厳しい時期であるものの,今年はGDPが英国を抜き世界第5位になり,また来年には人口が中国を抜き世界最大となる時期にG20議長国となる機会を重視している。

 国力だけでなくインドが誇る優位性が発揮できれば,国際的な影響力や発言力が高まると期待される。インドは多様性を誇る世界最大の民主主義国家であり,「民主主義の母」を自認するソフト力は大きな強みである。また,戦略的自立性に基づく非同盟中立主義のバランス外交は,国際的に対立する双方の国・地域とも対話でき,外交努力で問題解決の可能性を広げられるであろう。例えば,現在の米国と中国,ロシア間の対立でインドはいずれの国とも対話ができる関係にあり,調整する機能を期待できる。ウクライナ侵攻のロシアに対話と外交による終結を直に呼び掛けたのは好例であろう。

 インドは12月に入り西部ラジャスターン州のウダイプールで早速G20シェルパ会合を開催,また州政府や全政党に呼び掛け会議の意義を訴え準備に入った。議長国として直面する世界経済の課題や地政学的リスクに加え,グローバル・サウスの声を届け先進国と途上国の橋渡し役を務めると国民に訴えている。地政学的リスクでは野党からも海外覇権拡大を続ける中国への対応を問われており,日印米豪4カ国で推進する「自由で開かれたインド太平洋構想」(FOIP)が重要な議題になるであろう。構想はアジア太平洋に加えインド洋圏のアフリカ・中東地域での協力を推進するもので,議長国インドの采配に期待がかかる。

 FOIPの推進では,「特別な戦略的グローバル・パートナーシップ」関係に高まった日印両国が大きな役割を果たしている。来年はインドのG20議長国に加え日本がG7の議長国で5月に広島市で首脳会議を開催予定であり,共通する課題の解決に向けて両国の連携や協調にも期待したいと思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2787.html)

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