世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ポストコロナに向けてベトナム・ホーチミンで活躍する日本人ICT起業家達
(都留文科大学 教授)
2022.12.12
コロナ禍におけるベトナムの経済状況を振り返る。2020年4月から行われた厳格なロックダウンによってコロナ発症者抑制に成功し,ベトナムはコロナ対策優等生と呼ばれていた。しかし,翌2021年7~9月にコロナ禍再燃で,再ロックダウンとなり,四半期ベースで実質GDPが前年同期比▲6.03%と初のマイナス成長を記録した。その後,長引く経済停滞を改善すべく同2021年10月から「ウィズコロナ」政策に転換した。これにより,感染者は一時急増するも,全国民にワクチン接種が進み,3回接種の人口比率は現在12月で92%(日本83%)となった。景気も回復しGDPも四半期ベースで7%を上回るような高い成長となり,コロナ禍前を上回る状況となっている。このような,ポストコロナのホーチミンにて,活躍する日本人ICT起業家3人にインタビュー調査を行った。
プレミアムフードデリバリーサービス「Capichi(キャピチー)」をベトナムで展開する森大樹CEOは,神戸大学在学中だった2017年10月より休学して,ベトナム・ハノイのITベンチャーBeetsoft社でインターンを行った後,2019年7月に,Capichi社を設立。当初,旅行や飲食店動画検索・予約のアプリの運営を行った。まもなく,2020年新型コロナウイルス感染症の蔓延で,4月よりベトナムでも厳格なロックダウンが開始された。これにより,消費者側は食料調達ができなくなり,飲食店も顧客を一瞬にして失った。本状況下,自身が彼らのために何を貢献できるか考えたという。結果,飲食店と在住日本人を結ぶデリバリー受発注アプリ「Capichi」を,自社の開発チームで3日間で開発し,2020年4月にリリースした。現在,累計ユーザー数は10万人,提携店舗数は1000店舗を超えている。同社は,中高級・外資系店舗にフォーカスしており,この分野のフードデリバリーサービスの中では最大規模になっているという。
EdTech企業 「Manabie (マナビー)社」の本間拓也CEOは,東大を中退し,Londonの大学を卒業した後,2011年イギリスのオンライン教育スタートアップ「Quipper(クイッパー)」を共同創業し,2015年にExitした。その後,スタディサプリやQuipperのグローバル展開に関わり,2019年に「世界の教育を良くする」という志のもとManabie社を創業した。当初は,ホーチミンで,小中高生向けオンライン学習アプリの提供や,OMO型(オンラインにオフラインを融合させた)デジタル学習塾の運営を行っていたが,2019年日本で始まった「GIGAスクール構想」の混乱した状況を見て,「教育機関のフルDX」を掲げ,授業・教育に関するツールを一気通貫で提供するシステムを開発している。すなわち,教務に関するシステムすべてを一括管理し,教員,教室から,伝票の管理まで,いわゆる校務と呼ばれる範囲を統合する基幹システムである。現在,200人のベトナム人技術者が一部屋に集まり顔を突き合わせてプロダクトの開発に取り組んでいる。さらにこの開発体制は,オンラインを通し,フィリピンやインドネシアともつながっているという。その理念,「世界の教育を良くする」のもと,オンラインで技術が集結している。
「Credify(クレディファイ)社」の共同創業者の永尾修一氏は,東京大学で機械学習を学んだ後,スタートアップ等でFinTechやブロックチェーン技術などに磨きをかけ,最近日本人に帰化したCEO富永誠氏と共に2019年に起業した。Credify社は,シンガポールに本社を置くものの,ベトナム・ホーチミンを主要拠点とし,様々な社会実装実験を行い,プロダクトをブラッシュアップしている。ブロックチェーン技術を利用したデジタルIDプラットフォームをベースとして組込型金融をEコマース事業者,金融事業者等に提供しているフィンテック企業である。特徴としては,Eコマース事業者等のデータを活用して提携している金融事業者の商品を最適化して提供することである。2019年の起業と同時にコロナ蔓延となったが,コロナ禍の下で,社会実装実験を繰り返し,Productに磨きをかけることができたとのこと。
ベトナムでは,IT人材を政策的に拡充しており,TopDev社によれば,ベトナムのIT人材人口は2021年には90万人以上に達しており,その半数以上が20代の若年層である。一方,日本では,最悪のシナリオの場合,2030年には79万人のIT人材が不足し(経済産業省「IT人材需給に関する調査」2019年)厳しい現実が待ち受けている。このようなベトナムの潤沢かつ高品質なIT人材をどのように日本で生かせるかということが,今議論されている。しかし,ここに上げた3人はこのホーチミンに乗り込み,現地IT技術者との協業で巨大なイノベーションを起こし社会を変えようとしている。日本のイノベーション不振,IT技術者不足の処方箋ともなるような事例である。
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