世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3147
世界経済評論IMPACT No.3147

激動のラオスで活躍する日本人起業家達

佐脇英志

(都留文科大学 教授)

2023.10.16

 ASEANの中で比較的経済発展が遅れているといわれるラオスで日本人起業家の調査を行ったので,その状況をレポートする。

 ラオスは,来年2024年にASEANの議長国になるということで今まさに注目を浴びている。今年4月から運行を開始した,中国雲南省昆明市とラオスのビエンチャン間の総延長1035キロを9時間強で結ぶ国際高速鉄道に乗車した。実にASEANで一番早い列車とのことである。空港のような巨大な駅舎からホームに出ると,中国の軍服を着た職員が整列しており,列車に乗ると客車とは別に中国のコンテナを積んだ貨物列車が次から次へと入ってきていた。施設の70%が中国資本とのことで,駅の敷地は,まさに中国領土の様相である。最近の中国のラオス進出は注目されているが,直接投資に関しても2022年は日本の20倍,2021年に至っては日本の110倍という。かつて,ASEAN向け投資は日本の独壇場であったが,日本のプレゼンス低下を実感する事例である。

 このような状況の中,ラオスキープの対ドル為替は,1年で半分にまで落ち込んだ。このため,食料,衣料などの生活必需品を殆ど海外に頼っているラオスでは,輸入インフレが起こり,庶民の生活苦が続いている。為替下落による外貨不足によって,昨年2022年5月には,首都圏でガソリンの供給が困難に陥り,多くのガソリンスタンドが閉鎖したという。日本円も2年で40%程度下落し厳しい状況になっているが,その比ではない。

 このような状況のラオスに進出している日本企業総数は164社(JETRO)と少なく,ここで起業している日本人起業家も限定的である。その様なラオスで,逆境にチャレンジして頑張っている日本人起業家2人についてレポートする。

 ラオスビジネス商業大学(LSBC)学長の鈴木基義氏は,神戸商大,神戸市外国語大の2大学卒業後,タイ国立タマサート大学の大学院で開発経済学を学んだ。三重大で教鞭をとる傍ら,外務省に出向し在ラオス日本国大使館で勤務し,加えてJICA長期派遣専門家としてガーナ,シエラレオネの財務計画開発省で国家開発計画の作成支援を行った。さらに,鈴鹿国際大学の学長としても奉職した。

 この間,一貫して,ラオスにおいて経済開発支援を行ってきたが,その実力を買われ,ラオス計画投資大臣顧問,ビエンチャン都庁の上級顧問,チャンパサック県知事顧問,サワンナケート経済特区顧問等の要職を兼務している。工業団地設立など,日本企業の海外進出支援にも尽力し,ラオス進出日本企業164社のうち70%に対し何らかの形で支援を行ってきたとのこと。

 鈴木氏は,「人造りは国造り」のビジョンを掲げ,人生の最終目標として,2019年に「ラオスビジネス商業大学(LSBC)」を設立した。本大学は,貧しくとも志のあるラオスの若者を支援する企業・個人のドナーを募り,学生の卒業までの授業料を全額免除している。外資系企業で働けるようになるためには,英語,会計,統計など実践的な学問が不可欠とし,ラオスの若者を育てるために自ら教鞭を執り学生を鼓舞しているという。

 LAODI創業者兼醸造責任者の井上育三氏は,ラオスの首都ビエンチャン近郊で20haの広大な土地でサトウキビを栽培し,ラム酒を醸造している。地元広島で,27歳の時に仲間4人で分析機械の販売・メンテナンス会社を起した。近年海外の仕事が多くなり,中国を中心にアジアの工場向けに分析機械の販売メンテの仕事を扱うようになった。このような仕事の繋がりから,2007年ラオスにラム酒の醸造工場を作り上げた。ラム酒づくりをはじめとする酒づくりは未経験だったものの,分析機械の技術に加え,専門家から知識を得て,試行錯誤を重ねてラム酒生産ができるようになった。しかし,安価な労働力と原料にフォーカスした製品は,なかなか売れず困窮を重ねた。結果,仲間が去っていき,日本人一人になってしまい,2015年には破綻の危機を迎えた。しかし,戦略を大幅に変更し,値段よりも,ブランディングに力を入れ,マーケティングのプロに参画してもらった。

 今では,空港の免税店においてもらい,ビエンチャン市内にラムを専門に扱うバーを展開し,日本にもLAODIを特別に扱う飲食店が増えてきているとのことである。

 2021年1月にはラオス共和国へ貢献した人物としてラオス政府より表彰された。ラオスは,産業が無く,外貨を稼ぐ品物が乏しいため,ラオスに新しい魅力的な産業を立ち上げたことが評価されたのである。

 国が開かれてまだ間のないラオスでは,工業団地をはじめとしたインフラがまだまだ発展途上であり,日系企業の進出は,前述のとおりまだ164社で,隣国タイの日系企業5,856社(JETRO)と比べて1/36と大きな違いがある。日本人起業家がまだまだ育っていないのも同様の理由からである。このような社会課題を補うような人材を育成したり,新たな産業を興すなど,社会起業的なビジネスが多く,それがビジネスチャンスとなっている。このような,社会起業を成功させるためには,腰掛では歯が立たず,鈴木氏や井上氏のように生涯をかけて実現するような気概が必要とされる。日本を飛び出して,海外の厳しい環境に果敢にチャレンジする日本人起業家が増え,ラオスのような国の発展をサポートしていけるようになることを期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3147.html)

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