世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の輸出の減少と貿易・経常収支
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.06.02
トランプ関税と円高で輸出が減少
5月22日発表の日本の4月分貿易統計によれば,季節調整済み輸出金額は前月比−2.7%と,3月の同−4.3%に続いて減少しました。価格変動分を除く輸出数量も,3月には前月比−2.9%,4月は−1.3%と,2カ月連続で減少しました。トランプ関税の影響とも考えられますが,円実質実効為替レートが昨年7月から今年4月までに11.2%上昇しており,トランプ関税が無くても,円高によって輸出が減少しやすい環境にあると言えます。
コロナ禍前と比べて交易条件が低下
季節調整済み貿易収支は,4月には−4,089億円と3月の−2,917億円から赤字幅が拡大しました。コロナ禍前の2019年には月平均1429億円の赤字であり,足元の貿易収支はそこから悪化しています。2020年=100とする輸出数量の輸入数量に対する相対値は,2019年には101.9であったものが,今年3月は109.5,4月は106.4と上昇しています。一方,輸出価格の輸入価格に対する相対値,つまり交易条件は,2020年=100とした時,2019年には95.2であったのに対し,今年3月は87.8,4月は89.1と低下しています。交易条件の低下が,貿易収支の悪化をもたらしていると言えます。
今後は,トランプ関税と世界経済の減速によって輸出が減少する一方,国際商品市況が下落して輸入価格が下がり,日本の景気鈍化により,輸入数量も減りそうです。結果的に貿易収支は現状から大きく変わらないかもしれません。ただ,輸出の減退によって国内生産が減る分,国内景気にはマイナスでしょう。
第一次所得収支の黒字が拡大
現状程度の貿易収支赤字が続いても,海外との利子,配当の受払いを示す第一次所得収支の黒字幅が大きく,かつ,拡大方向にあるため,経常収支黒字は維持されると見られます。第一次所得収支黒字は,2019年の月平均1兆7,871億円から,今年1-3月の平均では3兆7,264億円へと拡大しています。経常収支も2019年の月平均1兆5,721億円から今年1-3月には平均2兆5,544億円へと黒字幅が拡大しています。
第一次所得収支の黒字拡大は,企業や家計が海外投資をすることで,利子,配当などの所得を得る機会が増えていることを示しています。ただ,海外投資の増大は,企業や家計の貯蓄が国内投資に十分回っていないことも意味します。日本国内で貯蓄が投資を上回っているということは,国内経済が需要不足であることを示しています。また,海外に投資するだけの資金的余裕がなく,所得獲得のために国内での生産,労働に依存している企業や家計は,第一次所得収支の黒字拡大の恩恵を得られません。輸出の減退によって国内景気が鈍化する一方で海外からの利子,配当等の所得の受取り増が続くと,所得獲得の機会が日本国内に留まる人と,海外からも所得を得る機会が開かれている人との所得・資産格差が拡大しやすいでしょう。
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