世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2757
世界経済評論IMPACT No.2757

ASEAN関連首脳会議とG20,APEC:世界政治経済の貴重な対話の場

清水一史

(九州大学大学院経済学研究院 教授)

2022.11.21

 11月11-13日に定例のASEAN首脳会議とASEAN関連首脳会議が開催された。今年のASEAN議長国カンボジアの首都プノンペンで開催され,ミャンマー情勢,南シナ海・東シナ海情勢,台湾情勢,北朝鮮情勢,ウクライナとロシア情勢などが話し合われた。会議に合わせて,バイデン大統領など世界各国から多くの首脳が集まった。そしてASEAN関連首脳会議に続けて,インドネシアのバリでのG20サミット,タイのバンコクでAPEC首脳会議が開催され,更に多くの首脳が集まり貴重な対話が行われた。

 11月11日の第40・41回ASEAN首脳会議では,ミャンマー問題やASEAN共同体構築などが話合われた。ミャンマー問題の解決に関しては進展が見られなかったが,「東チモールに関する声明」で,東チモールが11番目の加盟国となることを原則として認めたことは特筆される。近い内に東チモールが1999年のカンボジア以来の新規加盟国となるであろう。

 11月12日の第25回ASEAN+3首脳会議はウクライナ情勢,北朝鮮情勢,ミャンマー情勢とともに,「ASEAN+3作業協力計画」やASEAN感染症対策センターの稼働などを話し合った。日本からは岸田首相が参加した。

 多くのASEAN+1首脳会議も開催され,第25回ASEAN日本首脳会議では,日本ASEAN協力や来年の日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議の開催などが話し合われた。第10回ASEAN米首脳会議も開催され,バイデン大統領がアメリカ大統領として5年ぶりにASEANとの対面首脳会議に参加した。

 11月13日の第17回東アジア首脳会議(EAS)には,岸田首相,バイデン大統領を含め多くの首脳が集まり喫緊の問題を話し合った。バイデン大統領はアメリカ大統領として6年ぶりの対面参加であった。更にEASに合わせて,日米,米韓,日米韓などの多くの首脳会談が行われた。日韓の首脳も,3年ぶりの公式会談を行う事が出来た

 ASEAN関連首脳会議に続けて,G20サミットとAPEC首脳会議が15-16日にインドネシアのバリで,18-19日にタイのバンコクで開催された。G20サミットの前には,バイデン大統領と習近平国家主席との米中首脳会談が実現した。習近平国家主席はG20サミットに合わせてバリに入った。米中の対面での首脳会談は2019年6月以来,バイデン大統領が就任してから初であった。台湾を巡っては意見の相違があるが,気候変動やマクロ経済の安定などの協力で合意し,対話を継続していく事で合意した。今回の対面での対話の実現は,今後の東アジアと世界の安全保障と政治経済に大きな意味を持つであろう。

 バリでのG20サミットでは,米中やG7各国とともに多くの新興国も参加し,食料やエネルギー安全保障など多くの対話がなされた。両論併記ではあったが,ウクライナにおける戦争への非難を入れた首脳宣言を出す事も出来た。APEC首脳会議もバンコクで開催され,多くの首脳はASEAN関連首脳会議のプノンペンから,G20サミットのバリ,APEC首脳会議のバンコクへ移動して,対話を続けた。そしてバンコクでは,日中首脳が3年ぶりの対面での首脳会談を行うことが出来た。建設的かつ安定的な関係構築や安保対話の強化などが話し合われた。

 従来,ASEANは,東アジアの地域協力・経済統合の中心となってきた。ASEAN経済共同体(AEC)は東アジアで最も深化した経済統合となっており,ASEANを中心にASEAN+1のFTA網が構築されてきた。ASEANが提案したRCEPも,2022年1月に遂に発効した。

 そしてASEANは,東アジア地域における「交渉と対話の場」を提供してきた。ASEAN拡大外相会議,ASEAN地域フォーラム(ARF)などとともに,秋のASEAN首脳会議に続けてのASEAN+3首脳会議,ASEAN+1首脳会議,EASが毎年定例で開催されており,米中や日本など域外国を含めた重要な対話の場となっている。

 今回は,米中対立やロシアのウクライナ侵攻,中国と台湾の情勢,北朝鮮情勢,ミャンマー情勢など,世界と東アジアが政治経済においてきわめて厳しい状況にある中で,ASEANがこれまでの延長に貴重な対話の場を提供することが出来た。丁度G20の議長国がインドネシア,APECの議長国がタイであり,ASEAN関連首脳会議に連続してG20サミットとAPEC首脳会議も,ASEANで開催することが出来た。バランス外交を行っているASEANには,米中首脳も集まりやすい。

 東アジア各国や世界の大国が参加する対話の場は,多くの難問が山積している状況できわめて貴重である。対話の場を提供出来るASEANの役割は大きい。2022年に発効したRCEPも東アジアにおける対話の場を更に提供するであろう。

 ASEAN関連首脳会議と各種国際会議が,東アジアと世界の政治経済の対話の場として,更に活用されていくことを期待したい。

付記:本稿に関しては,拙稿「世界経済とASEAN経済共同体」,石川幸一・清水一史・助川成也編著『ASEAN経済共同体の創設と日本』文眞堂や,拙稿「RCEPの意義と東アジア経済統合」,石川幸一・清水一史・助川成也編著『RCEPと東アジア』文眞堂等も,参照されたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2757.html)

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