世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2753
世界経済評論IMPACT No.2753

漸く見えてきた東ティモールのASEAN加盟

助川成也

(泰日工業大学 客員教授・国士舘大学政経学部 教授)

2022.11.21

 東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で,東ティモールの加盟が原則合意された。加盟申請から11年,「ASEANの門をくぐるよりも,天国への道のほうが簡単なように思える」とはジョゼ・ラモス=ホルタ大統領の言葉である。23年のインドネシア議長国年に正式加盟出来るかは予断を許さない。東南アジアにおいてマレーシアに次ぐ民主主義国家の東ティモールの加盟が実現すれば,民主主義陣営の貴重な援軍となる。

東ティモールの加盟に原則合意

 22年11月11日にカンボジアで開かれたASEAN首脳会議で,東ティモールのASEAN加盟について原則合意された。同国の新規加盟が実現すれば,99年のカンボジア以来ほぼ四半世紀ぶり。今回の首脳会議では次の4点について合意された。

  • 1)東ティモールをASEANの11番目の加盟国とすることの原則合意。
  • 2)東ティモールにオブザーバー資格を付与し,首脳会議を含むすべてのASEAN会議への参加を容認。
  • 3)3つのASEAN共同体毎に派遣された実情調査団の報告書で特定された重要な節目(マイルストーン)に基づく,同国の正式加盟への客観的な基準ベースのロードマップを公式化し,ロードマップを策定して(次回の)第42回ASEAN首脳会議に報告,採択することをASEAN調整理事会に課す。
  • 4)全てのASEAN加盟国および外部パートナーは,同国の完全加盟のため,能力開発支援およびその他必要かつ適切な支援の提供を通じ,行程表の達成を全面的に支援。

 新規加盟を希望する東ティモールは,ASEANが創設以来55年に亘って積み上げてきた地域的約束の順守が求められる。東ティモールの義務を履行する能力と意思とを確認するため,3つの共同体(政治・安全保障,経済,社会・文化)別に実情調査団を派遣(注1),加盟準備状況と課題の把握を行った。この報告をもとに,正式加盟に向けたロードマップが策定され,次回のASEAN首脳会議での採択を目指す。

天国への道より険しいASEAN加盟

 東ティモールは2002年の独立直後からASEAN加盟に関心を有してきた。同年の議長国ブルネイがASEAN閣僚会議に独立を果たしたばかりの同国を「ゲスト」として招待した。同会議の共同声明では,将来も同国を今回同様に閣僚会議に招待するとともに,同国のオブザーバーの地位獲得への意思に留意することが明記されている。

 以降,東ティモールは,2007年に東南アジア友好協力条約(TAC)に加盟し,2011年には同年のASEAN議長国インドネシアに正式に加盟を申請した。しかし東ティモールには,長らくオブザーバーの地位は付与されず,今回の首脳会議で漸く付与が決まった。

 インドネシアで23年上半期にも行われる首脳会議で正式加盟のためのロードマップが採択されれば,11番目の加盟国に大きく近づくことになる。しかし22年1月の総選挙で勝利し,同年5月に再登板したジョゼ・ラモス=ホルタ大統領は,正式加盟国は「明日にでもなれるわけではなく,まだ数年かかるだろう」と慎重姿勢を崩していない(注2)。同大統領は22年7月にジャカルタで開かれたフォーラムで「ASEANの門をくぐるよりも,天国への道のほうが簡単なように思える」と述べている。

 東ティモールがASEANに加盟を申請してから11年。過去にも同国を加盟国に迎える機会は複数回あった。ASEAN創設50周年(2017年)時,議長国フィリピンは50周年の成果にすべく,同国の加盟を強く後押ししたものの,シンガポールが「同国の加盟準備が整っていない」として強く反対,全会一致の原則で加盟は認められなかった(ASEAN関係者談)。これはASEAN原加盟国が新規加盟国への門戸を開いた結果,ASEAN自体が幾度となく危機に晒されたことが,シンガポールが強い警戒心を持つ理由である。

 新規加盟国の一部は,南シナ海問題等で中国の代理人としてASEAN関連会議で活動したり,ASEANの内政不干渉原則をいいことに,人権侵害や軍事クーデターなど民主主義に逆行する行為等により,ASEANは幾度となく機能不全に陥った。国際社会からはASEAN懐疑論が噴出した。

 またシンガポールは,ラオスよりも経済規模や人口も少なく,海外援助に依存している東ティモールをASEANが抱え込むことは,自らの首を絞めかねないとして強い警戒心を有している。実際にシンガポールは同国の加盟に際して,コスト負担能力,制度の不備,中国に近づきすぎていること等を懸念してきた。シンガポールの懸念は,加盟申請から要した期間に現れている。これまでの新規加盟国は,加盟直前の政治混乱で正式加盟が先延ばしになったカンボジアを除き,申請から1年前後で加盟を実現した。東ティモールは今回の首脳会議で加盟への原則合意とオブザーバーの地位を獲得したが,2011年の加盟申請から既に11年が経過している。

 23年のASEAN議長国は,11年に東ティモールの加盟申請を後押ししたインドネシアであり,同国の加盟実現の期待も高まっている。23年中に正式加盟できるかは予断を許さないものの,東ティモールは東南アジアにおいてマレーシアに次ぐ2番目の民主主義国家と評価されている(注3)。民主主義国家と専制国家とが鬩ぎ合うASEANにおいて,東ティモールの加盟は,民主主義国家陣営の貴重な援軍となろう。

[注]
  • (1)ASEANは東ティモールの加盟準備状況調査のため,3つの共同体毎に19~22年にかけて実情調査団を派遣した。調査結果は各々の共同体評議会を通じて首脳会議に提出された。
  • (2)“For East Timor president, ASEAN membership a lifelong dream” November12, 2022, Reuters.
  • (3)「民主主義指数2021」(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット:EIU)。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2753.html)

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