世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
人類の最終戦争
(富士インターナショナルアカデミー 校長)
2022.11.07
ロシア・ウクライナ戦争の終結状況がどうなるか誰しも予想が立てられず,大規模な核戦争によって,甚大な大被害を世界にもたらす可能性を否定できない現在,気候変動について述べるのは,時期尚早のように思われるかもしれない。
しかし,筆者は「人類の最終戦争」は,「気候変動との戦い」であると確信している。なぜなら,この戦争に勝てなければ,確実に人類は終末を迎えることが明確だと断言できるからである。
この戦いは,勝者も敗者もない。人類全体が将来に希望を持てる勝者になるか,人類全体が滅亡という終末を迎えるかの「世界の分岐点」と言うこともできる戦いなのである。
国連の専門機関のひとつであるWMO(世界気象機関)の『2021年 地球気候の現状に関する報告書』(WMO-No. 1290)によれば,アメリカ・カルフォルニア州デスバレーで摂氏54.4度(7月),テュニジア・カイロウアン50.3度(7月),カナダ・リットン49.6度(6月),トルコ・シズレ49.1度(7月),イタリア・シシリー48.8度(8月),スペイン・モントロ47.4度(8月),アメリカ・ポートランド46.7度(7月),スペイン・マドリッド42.7度(8月),ジョージア・トビリシ40.6度(7月)と軒並み40度を超えている。
注目すべきは,緯度が高くて,寒い国とのイメージが強いカナダが50度近い暑さを経験したことである。
世界各地の熱波は,森林火災をもたらすと同時に,これまで以上に大台風が,最近では頻繁に発生し,世界各地で大洪水を発生させている。6月のパキスタンの洪水大被害では国土の3分の1が水没した。
一方,世界では,洪水と同時に大干ばつも発生させている。
グリーンピースジャパンの8月発表数字によると,2000年以降,干ばつの頻度と期間は世界全体で29%増加し,2050年までに干ばつが世界の75%以上に影響を与える可能性があるとされている。
大干ばつの影響で,アメリカのミシシッピー川の水位が異常に低下し,本来は船でしか行けない観光スポットとして有名な「タワーロック」に歩いて行けるという事態が生じている。
スイス・アルプスを水源とし,ドイツ,フランス,オランダなどを横断する国際河川のライン川の水も低下し,中世の古城を川から眺めるリバークルーズの観光事業も実施できなくなる可能性も出てきている。
実生活にとって,深刻なのは,干ばつにより,穀物,家畜などの生産が不可能となり,世界的な食糧危機が危ぶまれることである。
求められる企業活動
気候変動対策を経営課題として全社で取り組む必要性が高まる中,「気候変動リスクと機会」の開示が企業に求められている。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は,2022年9月現在,東証プライム企業(高い時価総額・流動性,高度なガバナンスを備える企業:1836社)に対し,気候変動リスクの情報開示を実質的に義務化した。
これは,TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づいたもので,TCFDは世界の中央銀行や金融当局からなる金融安定理事会(FSB)が設立。経営陣や関連部署だけでなく,すべてのビジネスパーソンがTCFDとその提言について理解を深めることが,今や,必須となっている。TCFD提言に賛同している世界の企業は2022年1月時点で2981社,日本企業は693社と最も多い。一方,実際に情報開示を行っている企業数は地域別で欧州が最も多く,日本企業の情報開示は今後,加速するとみられている。
期待される量子水素エネルギー
避けて通ることのできない人類共通の地球環境問題の解決に向けて,さまざまな試みがなされているが,無限な資源である海水から重水素と三重水素の原子核を融合させる核融合が実現すれば問題解決となることは分かっている。温暖化の原因となるCO₂の発生を抑える核融合が可能となれば,1グラムの核融合燃料で,石油約8トンに匹敵する熱量を獲得できることも分かっている。
しかし,原子核を衝突させて融合させるためには,毎秒1000km以上の原子核のスピードが出せる装置と,1億度以上の加熱が必要になり,巨大な設備と莫大な経費が必要となる。これにより,小型で,経費の掛からない水素エネルギーの次世代技術が望まれるところである。
現在,日本企業の間で,安価に入手できるニッケルと銅を使用したナノスケール金属複合材料に,微量の水素を高密度に吸蔵させ,量子水素が量子拡散する過程で起きる発熱反応を使って,都市ガスの1万倍のエネルギーをもたらすクリーンエネルギーの開発が進められている。「安全・安定・安価」なクリーンエネルギーとして,世界中で注目されているが,具体的には,量子水素エネルギーを利用した産業用ボイラの開発が企業の共同開発で進められていることは将来に明るい光明を見いだす「希望」である。
- 筆 者 :高多理吉
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
- 分 野 :etc.
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